「麦みそ」が「みそ」と名乗れない、食品表示の問題について
2022/11/29   広告法務, 景品表示法, 食料品メーカー

はじめに

 愛媛県宇和島市の「麦みそ」が国の食品表示基準では麦みそと名乗れない問題で25日、中村時広知事が国の基準変更の必要性を示しました。国と県との事務的なやりとりは始めているとのことです。今回は麦みそに関する表示問題を見ていきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、愛媛県は先月、県南部の伝統食材「麦みそ」を製造する同県宇和島市の3業者に対し、商品名に「みそ」や「麦みそ」を使わないように指導していたとされます。県は夏の検査で麦みそに大豆が使用されていないことを把握し、消費者に実際の物より優良だと誤認させる表示に当たるとして商品名を変更するよう文書で指導したとのことです。しかし3業者はいずれも半世紀以上同じ製法で生産してきており、名称の継続使用を求める要望書を県に提出したところ、県は再検討し優良誤認ではないと認めました。食品表示法と景表法での解釈の齟齬からこのような問題に発展したとされます。

 

食品表示法による規制

 食品表示法4条1項では、食品および食品関連事業者等の区分ごとに、消費者が食品を安全に摂取し、自主的かつ合理的な選択をするために必要な表示基準を内閣府令で定めるとしております。これを受け、食品表示基準が定められており、様々な加工食品や食品関連事業者またはそれら以外の業者に関する表示方法や表示禁止事項などが規定されております。そしてこの食品表示基準別表第三では食品の区分とその用語、定義が定められており、「みそ」の区分ではそれぞれのみそについての定義も定められております。それによりますと「みそ」とは大豆もしくは大豆と米、麦等を蒸煮したものに麹菌を培養したものと塩を加えて発酵させた半個体状のものを言うとしております。また「麦みそ」とは大豆を蒸煮したものに大麦またははだか麦を蒸煮して麹菌を培養したものと塩を加えて発酵させたものとされております。いずれも大豆を使用したものとなっております。

 

違反表示をした場合

 食品表示法または食品表示基準に違反した表示をした場合、内閣総理大臣または農林水産大臣は適切な表示をするよう指示することができ、指示を受けた業者が正当な理由なく指示にかかる措置をとらなかった場合は措置命令を出すことができます(6条1項~5項)。これらの行政措置を行った場合、その旨を公表することとなります(7条)。措置命令に従わなかった場合は罰則として1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されることがあります(20条)。また違反表示行為はこれら食品表示法に違反するだけでなく、同時に食品衛生法や健康増進法、計量法、薬機法、そして景品表示法に違反する場合があると言えます。景表法については以下具体的に見ていきます。

 

優良誤認表示

 景表法4条1項1号によりますと、商品または役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる場合に優良誤認表示として違法となるとされます。ここに言う「著しく」とは社会的許容度を超えた誇張・誇大を言います。そして社会的許容度を超える誇張・誇大とは、一般消費者が実際と異なることをあらかじめ知っていたら取引に誘引されなかったであろうと認められる程度とされ、その基準は一般消費者の表示から受ける印象・認識によると言われております。つまりあくまでも一般消費者の視点を基準に判断されるということです。単純に表示と事実が異なっているというだけでは該当しないと言えます。

 

コメント

 本件で食品表示基準の定めによりますと、「みそ」または「麦みそ」は大豆を使用していることが要件となっております。しかし愛媛県南部地方では半世紀以上昔から大豆を使用しない製法で麦みそを製造しており、またそれに「麦みそ」と表示して販売しております。当初県は景表法に違反するおそれがあるとして指導しましたが、景表法では上記のように消費者を基準に誤認の有無を判断します。麦みそに大豆が使用されていると誤認し自主的かつ合理的な判断を阻害されることは考えにくいことから指導を撤回されたものと思われます。しかし食品表示基準には違反している状態と言えることから今後の基準の見直しがなされるのかが注目されます。以上のように食品の表示に関しては章句品表示法等で厳格に定められており、違反した場合は景表法など他の法令にも抵触する可能性があります。しかしそれぞれの法令で基準が異なることから、それぞれの対応を準備し見直しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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