食品回収(リコール)について
2016/11/08 コンプライアンス, 食品衛生法, 食料品メーカー
・はじめに
先日の11月4日(金)、大手食品メーカーであるマルハニチロは釧路工場で製造した「セブンプレミアム さんま蒲焼 100グラム」に金属の一部が混入しており、当該商品を含む3商品を着払いにて自主回収することを発表しました。近年食品事故が増えており、消費者の目も厳しくなってきています。今回は、食品回収(リコール)についてまとめてみます。
マルハニチロ お詫びと商品回収のお知らせ(PDF)
・食品回収(リコール)とは
食品回収(リコール)とは、食品に含まれる成分が人体に有害であったり、異物が混入していたりした場合に、当該商品を回収(リコール)することです。そして、食品のリコールには大きく分けて食品関連法令に基づく回収命令と、法令に基づかない企業の自主回収によるものがあります。回収命令の場合には、食品衛生法第 54 条には廃棄命令等の規定がありその要件を満たすと厚生労働大臣又は都道府県から回収命令が下されることになります。
食品衛生法
食品衛生法等関連法令に違反のおそれがある場合や、健康に悪影響を及ぼすおそれがある場合、さらには、企業のブランドイメージといった社会性の観点から、製造事業者等は自らの判断で、自主的に消費者からその食品等を回収したり、返金等を行っています。本記事で取扱ったマルハニチロによる回収はこれに該当し、食品回収(リコール)の多くは自主回収にあたります(行政機関としてもまずは企業に自主回収を促しているという側面もあります)。
・回収(リコール)の基準
回収命令の場合、食品衛生法6条・9条に違反した時という基準が明文化されています。
しかし、自主回収の場合には明確な基準はありません。その様な時には、健康被害の程度等の要素について検討し、案件毎に判断されています(下記の「内閣府 食品リコールに関する現状」を参照してみてください。)。例えば、同じ時期に、はごろもフーズのツナ製品に虫が混入していたことが判明しましたが、自主回収には至りませんでした。マルハニチロと比較し混入物の違い(金属片と昆虫)や混入の経路(マルハニチロの事件では一定の大きさの金属片を探知できないことが判明しています。よって、そのような金属片が混入した場合には探知できなかったようです。他方、はごろもフーズの事件では偶発的に昆虫が混入したと発表しています。)等を考慮して自主回収するか否かの違いが生じたと考えられます。このように企業によって回収するか否かの基準も異なると推測され、実際に回収するか否かの対応は様々です。
はごろもフーズ お詫びとお知らせ①(PDF)
お詫びとお知らせ②(PDF)
参考 内閣府 食品リコールに関する現状(4.食品リコールの現状 (2)食品の自主リコールの判断基準の現状)
・企業の対応例
多くの企業はこのような食品事故に対し少なくとも事故があったことの通知と回収協力依頼(代金返還を含む)を行っているのが現状です。そしてこのような対応の際に、再発防止に努めることを表明する企業が多く、加えて具体的対策を検討・公開している企業もあります。これらのことから考えれば、現在食品を扱う企業としては通知・告知は最低限の義務であり、回収を検討することが望ましいと言えるでしょう。
食品事故情報
・その他に考慮するべきリスク
食品事故が生じた場合には、その情報の収集手段や発表体制の構築等は当然に重要です。そして、回収するとなった場合に特に気をつけたいのは回収費用です。下記の記事(「商品のリスクをどう避ける」)によれば、回収する個数が2万個であった場合にその回収等にかかる経費は約5000万円に上るそうです。マルハニチロの対応を例にとって考えてみましょう。郵送により問題のある可能性が存在する缶詰を着払いで回収して代金を返還するという対応となります。したがって、全ての消費者の方が返金を望まれた場合約413億円の回収費用がかかる可能性があるという計算となります。
170円(商品の代金)+1,210円(商品一つをチルドパックで栃木の工場(マルハニチロがこの工場への郵送を明記しています。)へ送った場合の費用の平均)=1,380円
1,380円×29,970,000(回収対象となっている個数)=41,358,600,000円(約413億)となります。
商品回収(リコール)を決定する際には、このようなリスクを考慮しなければなりませんが、そのような回収費用を補てんする保険もあります。食品を扱う企業の法務担当者としてはそのような保険の利用も考えておくべきでしょう。
商品リスクをどう避ける ~急増する安全のコスト~
食品リコール(回収)費用保険のご案内 一般社団法人 食品産業センター
・おわりに
今回は、食品事故が起こり回収となった際に企業がどのような対応をしてきたか・すべきか・何を考慮するべきかを記事にまとめてみました。しかし、本来まずは事故が起こらないような体制を構築するのが重要です。その他にも食品を扱う企業として考えるべきリスクは下記の参考サイトに載っている通り様々です。企業の法務担当者としては常に最悪の事態を想定して行動するように心掛けるべきでしょう。
参考サイト
よくわかる食品事故発生時の対応の基本
第1回事故に対する基本的な考え方
第2回平常時の対応
第3回事故発生時の対応
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