資材高騰を理由とする請負代金変更協議の拒絶、優越的地位濫用のおそれ
2022/11/08 契約法務, コンプライアンス, 独占禁止法, 建設
はじめに
国土交通省は、建設工事の請負代金について、契約締結後に資材などの価格変動を理由とした変更や協議が難しい現状に対し見解を示しました。東京を例にとっても、2022年9月時点での建設資材物価指数は、建築部門で136.8(2011年の平均を100として換算)と、2021年1月以来、急騰しています。このような、資材の価格変動があった場合、受注者側としては代金にそれを反映させたいところですが、建設工事請負契約を締結する発注者・受注者間の力関係の偏りにより、代金変更の申し出が難しい状況があるといいます。その結果、契約条件が一方にだけ有利に定められてしまいやすい、いわゆる「請負契約の片務性」の問題が生じ、建設業の健全な発展と建設工事の施工の適正化を妨げるおそれが生じています。
【参考リンク】
建設資材物価指数 (2022年9月分)
建設資材の高騰の原因
木材にはじまり、鉄鉱石、アルミニウム、銅、ニッケルなど、日本の建設業界は、主な建設資材の原材料の調達の大部分を輸入に頼っています。こうした背景のもと、ウクライナ危機がもたらす原材料の高騰、急速に進む円安などを原因として、建設資材の高騰が進んでいます。
請負契約(民間工事)における請負代金変更の現状
建設工事の請負契約は、本来、その契約の当事者の合意によって成立するものですが、合意内容に不明確、不正確な点がある場合、その解釈規範としての民法の請負契約の規定も不十分であるため、後日の紛争の原因ともなりかねません。そのため、建設業法では、法律自体に請負契約の適正化のための規定(法第3章)をおくとともに、それに加えて、中央建設業審議会(中建審)が当事者間の具体的な権利義務の内容を定める標準請負契約約款を作成し、その実施を当事者に勧告する(法第34条第2項)こととしています。
中建審は、昭和24年発足以来、標準約款に関しては、公共工事用として公共工事標準請負契約約款、民間工事用として民間建設工事標準請負契約約款(甲)及び(乙)並びに下請工事用として建設工事標準下請契約約款を作成し、実施を勧告しています。
このうち、民間建設工事標準請負契約約款では、請負代金変更に関し以下の方針を示し、甲乙の各約款(甲:第23条、乙:第22条)にて、それぞれ、その旨を規定しています。
(1)長期契約において、契約締結から1年後以降の価格変動または予期不能な経済事情の激変により、請負代金相当額が適当でないと認められるときには、受注者・発注者双方により、請負代金額の変更を求めることができる。
(2)請負代金の変更は原則として、①工事の減少部分については請負代金内訳書の単価、②増加部分については時価による。
しかし、古くは2000年代以前、その後も、リーマンショック前の時期の資材価格高騰、震災復興やオリンピック需要などによる資材価格の高騰の時期などに、「価格変動に伴う請負代金額の変更を求める条項」が削除される事例や「資材価格高騰を理由とする請負代金の変更を認めない旨の条項」が盛り込まれる事例の増加が確認されています。
国土交通省の見解
本件に関し、国土交通省は、まず、『請負契約内で「請負代金額の変更に関する協議を認めない旨の条項」を盛り込むこと自体は、直ちに建設業法違反を構成するものではない。』としています。
その上で、公正取引委員会HPの独占禁止法の解釈を引用し、『仮に、契約書内に「請負代金額の変更に関する協議を認めない旨の条項」が盛り込まれていたとしても、以下の場合には、独占禁止法で禁じる“優越的地位の濫用”として問題となり得る』としています。
・実際の資材価格等のコスト上昇の程度や契約時に想定していた振れ幅に照らし、明示的に協議をしないことが不当な場合
・価格転嫁をしない理由を書面、電子メール等で回答しない場合
【参考リンク】
持続可能な建設業に向けた環境整備検討会 第四回検討会 資料
コメント
今回、建設業界における請負代金の変更に焦点を当ててご紹介しましたが、原料高騰は各業界で生じており、いずれの業界の企業にとっても他人事ではありません。請負事業者との契約書上、請負代金の変更に関し、どのような取り決めが為されているかを確認しつつ、代金変更の協議を申し込まれたときに、どのような基準でどのような対応を行うか、今のうちから整理しておいた方がよいかもしれません。
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