企業における「SNS利用ガイドライン策定」のポイント
2022/11/07 コンプライアンス, 広告法務

はじめに
株式会社花王やライドオンエクスプレスホールディングス(銀のさら)が10月の国際カミングアウトデーに投稿した内容が議論を呼び、企業側が謝罪する事態となりました。また、フォロワー数の多い議員が、特定個人への中傷投稿に「いいね」を大量に押した行為に対し、東京高裁は損害賠償を命じています。
マーケティングやブランディングの観点で、SNSの重要性が企業にとって上がる一方、そのセンシティブさも増加しています。そこで今回は企業や社員がSNSを利用する際の注意点などをおさらいします。
国際カミングアウトデーの投稿の何が問題だったのか
■花王の投稿内容
#メリット ってどんなシャンプーなのか知らんし。
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銀のさらは、実はサンドイッチ店から始まった。
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一度、書込みがされると、信用を回復するまでに時間がかかり、会社に大きな損害をもたらすことが多いのが、SNS運用の特徴の一つです。
ガイドライン策定するべき理由
企業のSNSガイドラインは大きく分けると、社内運用向け(会社が作った公式アカウント等で投稿する際のガイドライン)と従業員個人向け(従業員個人が作ったアカウントで投稿する際のガイドライン)の2つに分類されます。こうしたガイドライン作成する理由は大きく3つあります。
(1)企業の信頼、秘密保持のため
飲食店や宿泊施設などで従業員が著名人の来店に関する投稿を行うなど不適切な書き込みは会社の信用問題に関わります。
また、発表前の情報や製品についての情報を投稿するなど、近年ではSNSからの情報漏洩問題も増加しています。勤務時間外に投稿した会社の評判が原因で、会社の信頼を損なったという事例もあるということです。
(2)トラブル防止
企業アカウントでも、一般ユーザーや他社アカウントと会話をする形でのSNS運用を行う企業がしばしば見られます。
一般ユーザーとしては、自分の好きな製品の企業からコメントで返信が来ると大変嬉しいですし、そうした楽しいやりとりが話題となりファン拡大のチャンスでもあります。また、どんな方が製品を購入、利用しているのかを知る機会にもなり企業にとってもメリットがあります。
その一方で、やりとりの内容やタイミングによってはトラブルになったり、炎上する危険があります。
どんな投稿も意図しない範囲や形で拡散される可能性があることを理解してもらうことが大切です。
(3)問題発生時の対応根拠
万が一トラブルが発生した場合、迅速な対応が求められます。会社への問い合わせが殺到したり、従業員の個人情報や会社の情報漏洩が拡大するのを防ぐ狙いがあります。仮に従業員個人のSNS上でのトラブルであったとしても、会社が関連した投稿であればトラブル解決に向けて対応しなければならなくなります。
緊急時、どのように対応するか、その方法を明らかにしておくことで、被害を最小限に止めることができます。
さらに、トラブルが起こった経緯などの情報を収集できるような制度作りにし、業務に支障が出ないようにしたり、ステークホルダーへの説明の際にも役に立ちます。
ガイドラインで制定する内容
ガイドラインを作る際には、どういったことに注意したらいいのか。以下が主な項目例となります。
・基本方針
ソーシャルメディアに対する、企業の姿勢、スタンス、考え方
・ソーシャルメディアの特性の理解
インターネット上に発信された情報は、投稿ボタンを押した瞬間に世界中に拡散されるということ。デジタルタトゥーとして一生残り続ける場合もあることを頭に入れる旨の注意書き。
・情報漏洩に関する事項
経営に関する情報、発表前の未公開情報、従業員・顧客の個人情報、企業に知的所有権のある情報の発信禁止。
・顧客・取引先等の情報の保護
顧客や取引先の企業など、第三者の権利を侵害する情報発信の禁止。
・公式アカウントに関する事項
自社の公式アカウントを運用するか否かについての規定。加えて、運用の際のルールも定めておくとよい。(投稿する日時等のタイミング、特定の人にとって特別な意味合いを持つ日に投稿を行う際は、その歴史的背景などを踏まえて投稿を行う旨等)
・ステルスマーケティングややらせ行為について
やらせ行為やステルスマーケティングの禁止。(例えば、製品についての口コミは実際に使用した顧客に投稿してもらうなど。)
・誹謗中傷の禁止
特定の個人や集団、民族、思想、信条、宗教、政治等への蔑視や侮辱、名誉毀損、攻撃的・差別的・性的・排他的な表現や発言を行わないこと。
・デマを投稿、拡散しないこと
嘘か本当かわからない情報を鵜呑みにして、拡散したり、投稿しないこと
・個人の責任の明確化
従業員が自分自身で作成したアカウントでの投稿の責任は企業は一切関係ないことの明記
企業のSNSガイドライン事例
では、日本企業では、具体的にどのようなガイドラインを作成しているのでしょうか。実際に、公表している企業の事例をご紹介します。
(1)資生堂
大手化粧品会社の資生堂では、情報発信だけでなく、「お客様との対話」に焦点を当てたSNS運用で、愛される企業を目指すと冒頭に基本的なスタンスを示しています。
一度発信した情報は完全には取り消せないことを理解し、と前置きをしたのちに、従業員にどのような心構えでSNSと向き合ってもらうのか示した7項目が並びます。
https://corp.shiseido.com/jp/smp/
(2)YKKグループ
チャックなどのメーカーで知られるY K Kグループでは、Twitter、Blog、Facebook、Instagram、Linkedinなどを活用していて、「ご案内とお願い」という中では、投稿が必ずしも公式発表や正式な見解を表すものではないと明記しています。
(引用)
ソーシャルメディアにおける当社の従業員が発信する情報は、必ずしも当社の公式発表や正式な見解を表すものではありません。当社による公式発表や正式な見解の発信は、当社のウェブサイト、ニュースリリースなどでご確認ください。
また、他のユーザーからの嫌がらせや不適切な投稿、コメントに関しては次のように定めています。
(引用)
ソーシャルメディアにおいて、管理運営を妨げる、第三者の権利を侵害する等当社が不適切と判断するコメント、投稿、行為があった場合、当社の判断により当該コメント等の削除、アカウントのブロック等を行う場合がありますので、あらかじめご了承ください。
https://www.ykk.co.jp/japanese/social.html
コメント
SNSの世界は日々変わっていきます。去年のガイドラインではもう通用しないということもあるかもしれません。すでにガイドラインが作られている企業においても、アップデートを頭の片隅で考えながら、改めて自社のガイドラインを読み直してみるのもよいかもしれません。
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