法務省の見解公表/AIの契約書審査サービスに違法の可能性
2022/10/25   契約法務, リーガルテック, 弁護士法

はじめに


法務省は14日、AIで契約書を審査するサービスについて言及し、「弁護士法違反の可能性が否定できない」とする見解を公表しました。法務省は、今年6月にも同様のサービスについて違法の可能性を示し、サービスを提供する4社は業界団体を設立し、理解を求める活動をしていました。当該サービスは、利用者がクラウドにアップロードされた契約書を分析し、企業にとって不利になる契約上の誤り等を見つけ、修正案を提供するものです。当該サービスは、大企業から中小企業まで、既に数千社に利用されています。
 

弁護士法による規制


 まず、法務省が問題視しているのは、弁護士法72条です。

<弁護士法第72条>
「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。. ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。」


同条違反はいわゆる非弁行為といわれるもので、法務省の発言を換言すると、AI契約書審査が、非弁護士による法律事務の取り扱いという禁止された行為に該当するのではないかと問題意識を持っているということになります。
 

AI契約書審査の法的論点


弁護士法第72条は、
(1)行為者が、弁護士又は弁護士法人でない者であること
(2)報酬を得る目的で行われるものであること
(3)「業と」して提供するものであること
(4)「その他一般の法律事件」に関して「鑑定(中略)その他の法律事務」を取り扱うこと
を構成要件としています。

現在、問題となっているAI契約書審査については、もっぱら(4)の法律事件該当性および法律事務該当性が論点となっています。

 

法務省の具体的見解


1.「その他一般の法律事件」への該当性
今回発表された回答によりますと、弁護士法第72条の「その他一般の法律事件」に該当するというためには、72条本文に列挙されている[訴訟事件]、[非訟事件及び審査請求]、[異議申立て]、[再審査請求等行政庁に対する不服申立事件]といった具体的例示に準ずる程度に法律上の権利義務に争いがあり、あるいは疑義を有するものであることが要求されるとしています。

その上で、「その他一般の法律事件」に該当するか否かの判断は、個別具体的な事情を踏まえ、個別の事案ごとに判断されるべき事柄としています。

その前提に立ったときに、AI契約書審査サービスは、個別具体的事情によっては、「その他一般の法律事件」を取り扱うものと評価される余地が残ると見解を述べています。

ちなみに、回答書の後段で、レビュー対象契約書を限定する場合であっても、「その他一般の法律事件」を扱うものに当たらないと一概に判断するのは困難である旨も付言しています。

2.AI契約書審査の各機能と「鑑定(中略)その他の法律事務」への該当性
①契約書のレビュー結果として、選択した立場に応じた法的リスクの判定結果、当該リスクに関する解説、修正例等を表示する機能

→いずれもレビュー対象契約書の条項等の法律効果について、法的観点から評価を加えた結果を表示するものであり、これらは法律上の専門知識に基づいて法律的見解を述べるものとして「鑑定」に当たると評価される可能性がある。

②レビュー対象契約書の条項等についての一般的な解説を表示する機能

→レビュー対象契約書の条項等に係る法律効果を前提として、留意すべき箇所を指摘するものであり、これは法律上の専門知識に基づいて法律的見解を述べるものとして「鑑定」に当たると評価される可能性がある。

③レビュー対象契約書の条項等について、あらかじめ登録した自社雛形との比較結果・解説・リスク判定結果・類似度判定結果・利用者自ら設定した留意事項を表示する機能

→上記①、②と同様の理由で、解説及びリスク判定の結果は、「鑑定」に当たると評価される可能性がある。また、自社雛形との比較結果、類似度判定の表示は、個別具体的な事情に照らし、単なる言語的な意味内容の類似性を超えて法的効果の類似性・相違点を表示するものと評価される場合には、「鑑定」に当たると評価される可能性が残る。

なお、仮にAI契約書審査サービスの利用者を弁護士又は弁護士法人に限定する場合、利用者の社内弁護士の監督があることを条件とする場合であっても、そのことで、弁護士法第72条本文の各要件該当性が否定されることにはならない旨も付言しています。

 

サービス提供会社の動き


 株式会社LegalOn Technologies(東京)の提供する「LegalForce」は、審査対象の契約書と事前に用意した類型別のチェックリストをAIが比較し、必要な要素が抜けていないか瞬時に確認するものです。同社の角田望社長は「法律の専門的知識に基づいて法的見解を述べる過程はなく、回答の対象となったサービスとは前提が異なる」と述べています。AI契約審査クラウド「GVA assist」を提供するGVA TECH株式会社(東京)の山本俊社長も同様の認識を示しています。両社としては、法律の専門的知識に基づく法的見解をAIがはじきだすサービスではないため、弁護士法72条に違反しないと主張しています。

なお、グレーゾーン解消制度とは、現状の規制対象が不明確な場合、新たなビジネスを検討している事業者が事前に規制への抵触の有無を確認できる仕組みのことをいいます。主に経済産業省が窓口になって質問を受け付け、所管する省庁と協議して回答します。本件のサービスに限らず、様々なサービス等に利用できる制度ですので、新規事業周りの法務相談を受けた際は、ご利用を検討してもよいと思います。

グレーゾーン解消制度・プロジェクト型「規制のサンドボックス」・新事業特例制度(経済産業省)

 

コメント


 AIの契約書審査サービスは、今まで弁護士・法務担当者が手作業で行っていた煩雑な作業を一挙に解決してくれる優れものとして、数年前から注目を集めています。技術の開発に法律の壁が立ちはだかるのはどの分野においても起こり得るところですが、AI契約書審査サービスの多くは、弁護士が代表を務める会社にて開発されており、サービス設計段階から複数の弁護士による慎重な法的検討を経たうえでリリースされています。また、近年、その精度に高い信頼を置き、日常業務に頻繁に活用している事務所弁護士も増えていると耳にします。

 こうした状況下で、実際問題、弁護士が監修し、弁護士が信頼を置いて業務利用しているAI契約書審査サービスの普及が、非弁活動禁止の保護法益を、具体的にどのように侵害するのかは、非常に見えづらいところです。また、法律のプロである弁護士達が適法と判断したサービスが、後日、違法の可能性を指摘されてしまうというのであれば、この弁護士法第72条を一般人が適切に扱うのは至難の業とも言えます。

 テックツールが加速度的に普及する「DX時代への適合」という観点からも、「同条の解釈の困難さ」という観点からも、弁護士法第72条については、早急に改正する必要があるように感じます。

 事業目的の実現のために法改正を促す「ルールメイキング」は企業法務領域のホットワードの一つですが、このAI契約書審査サービスに関し、どのようなルールメイキングの動きが起こるのか、要注目です。

 

【参考リンク】
契約書レビューサービスの提供に関する確認の求めに対する回答の内容の公表(回答日:令和4年10月14日)
 

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