グノシー執行役員、元勤務先への背任容疑で逮捕
2022/10/04   コンプライアンス, 会社法, 刑事法

はじめに

 不動産会社勤務時代に、当時の取引先に水増し請求させて会社に損害を与えたとして警視庁はニュースアプリ運営会社「Gunosy」(渋谷区)の執行役員、山本裕太容疑者(40)を背任の容疑で逮捕していたことがわかりました。被害額は約3100万円とのことです。今回は背任罪について見直していきます。

 

事件の概要

 報道などによりますと、かつて不動産会社「ケイアイスター不動産」(埼玉県本庄市)の執行役員であった山本裕太容疑者は、2018年10月~20年2月に同社のネットシステムの開発と保守管理を請け負っていた宇都宮市内のウェブ制作会社社長と共謀して業務委託費を水増しして請求させたとされます。請求額は約1億円で、計約3100万円を水増しして請求した疑いが持たれているとのことです。ケイアイスター社側が高額な請求を不審に思い、社内調査した結果発覚したとされ、山本容疑者は20年3月に懲戒解雇処分となり、刑事告訴されておりました。共謀したとされるウェブ制作会社社長は山本容疑者から30%水増しして請求するよう指示されたとしており、3100万円は山本容疑者の口座等に送金されていたとのことです。なお、山本容疑者は容疑を否認しているそうです。

 

背任罪とは

 刑法247条によりますと、他人のためにその事務を処理する者が、自己もしくは第三者の利益を図り、または本人に損害を加える目的でその任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、5年以下の懲役または50万円以下の罰金とされております。「他人のためにその事務を処理する者」とは、他人から財産上の事務処理を委託された者とされ、雇用されている者や、財物の保管者、債権や不動産を譲渡した後に他に二重譲渡した者なども含まれます。そして自己または第三者の利益を図るか、または本人に損害を加える目的で、任務違背行為を行う必要があります。任務違背行為に該当するかは社会通念に従って判断されると言われております。財産上の損害とは、経済的見地において本人の財産状況が減少、または増加すべきところが増加しなかった場合を言うとされます(最決昭和58年5月24日)。回収の見込みのない貸付や手形の振り出しも該当することになります。

 

横領罪との関係

 刑法252条によりますと、自己の占有する他人の物を横領した者は5年以下の懲役に処するとされます。横領罪は委託信任関係に違反する他人の物の処分とされ、委任契約や寄託契約、賃貸借など契約等に基づく委託関係が必要です。この委託関係にしたがって占有している他人の物を処分すると成立します。背任も横領も他人からの委託信任に背いて損害を与えるという点で共通します。違う点は本人に損害を与える行為の態様と言えます。財物を勝手に処分する場合が横領、広く任務に違背する行為が背任となり、一つの行為が両者に該当することも有りえます。背任罪と横領罪が両方成立する場合は、横領罪のみが成立します。つまり背任罪のほうがより範囲が広いと言えます。

 

会社法の特別背任

 会社法960条1項によりますと、会社の取締役、会計参与、監査役、執行役、発起人、支配人、使用人、検査役等の者が背任行為を行った場合、10年以下の懲役、1000万円以下の罰金またはこれらの併科となっております。会社法の特別背任と呼ばれるものです。会社経営において重要な役割を担う役員等はその責任の重さから、背任行為に対して通常よりも厳しい罰則が設けられているということです。ここに挙げられた役員等に該当しない者であっても、それらの者の背任行為に加担した場合は共犯が成立することとなります。実際に有罪判決が出た特別背任事例としては、代表取締役が共犯者と共謀してゴルフ場開発資金名目で行った不正融資(最決平成17年10月7日)、銀行の頭取が実質的に倒産していた企業グループに行ったずさんな無担保融資(最決平成21年11月9日)、親会社代表取締役が子会社に利益を得させる目的で、子会社の不良在庫を買い取った例(広島高裁平成16年9月21日)などが挙げられます。

 

コメント

 本件で山本容疑者は、執行役員を勤めていたケイアイスターに対して、取引先社長と共謀し、役3100万円の水増し請求をさせて損害を生じさせた疑いが持たれております。これが事実であった場合、同社との雇用契約などに基づく事務処理者であった者が自己の利益を図る目的で損害を与えたと言え、背任に該当する可能性は高いと言えます。以上のように会社内部の者が任務に背いて会社に損害を生じさせる行為を行った場合、背任や横領、特別背任などに当たる場合があります。自社の営業秘密を他社に漏洩させた場合も背任に該当することがあります。背任事例で最も多いのが回収の見込みが少ないにもかかわらず、十分な担保も取らずに融資するといった例です。グループ内での融資でも十分に審査がされているかなど、今一度確認しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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