天馬、和解金1億5000万円にて元取締役等との訴訟を解決
2022/09/27   コンプライアンス, 海外進出, 会社法

はじめに


大手プラスチック総合メーカーの天馬株式会社(東証プライム上場中)は、2022年8月30日付けで各社宛てに”和解による訴訟の解決に関するお知らせ”を発表しました。これは、2020年12月25日に同社の監査等委員会が同社を代表して、元取締役6名に対し、善管注意義務違反に基づく損害賠償(4億3709万8988 円)を求め、東京地方裁判所に提訴した訴訟に関する和解となります。裁判所から和解勧告を受けたことや、本件訴訟が継続された場合の訴訟費用や時間等を総合的に考慮した結果、和解という判断に至ったとのことです。本記事では、天馬株式会社が今回の訴訟に至った経緯を紹介したいと思います。
 

経緯


(1)ベトナムにて追徴課税逃れの賄賂支払い
事の発端は、天馬が2017年6月にベトナムの税関局より輸入部材の付加価値税の追徴課税として、約18億円の請求通知を受けたことに遡ります。報道等によりますと、当時の幹部は社長の承認を受けたうえで、税関局検査チーム長に対して約1000万円の現金を支出し、追加徴収を全額免れていたとされています。さらにその後、2019年にベトナム税務局が法人税をめぐり約9千万円の追徴金を天馬に求めた際にも、同様に、税務局副部長に対して約1380万円の現金を渡すなどして追徴金の大幅減額に成功したといわれています。

(2)第三者委員会の設置および同委員会による調査
その後、天馬はこの不適切な金銭交付疑惑について第三者委員会を設置、関係者へのヒアリングや現地調査、デジタルフォレンジック調査、役員へのアンケートを行う等、調査を進めていました。2020年4月2日には「第三者委員会の調査報告書」を公表しています。調査報告書では、上述したような現地の公務員に対する現金交付の事実が認められたとされています。

(3)元取締役への損害賠償請求訴訟の提起
天馬の監査等委員会は、第三者委員会の調査報告書の内容を踏まえ、当時の元取締役6名に対し、善管注意義務違反に基づく損害賠償請求訴訟を2020年12月25日付けで東京地方裁判所に提起しました(会社法の規定により、本件訴訟は、代表取締役ではなく監査等委員が会社を代表)。

(4)元社長らの在宅起訴
本件に関しては、刑事事件にもなっており、2022年5月23日、東京地方検察庁特別捜査部が、天馬の元社長、元経営企画部長、現地子会社の元社長及び法人としての天馬株式会社を、外国公務員への贈賄の罪(不正競争防止法第18条・第21条2項7号)で在宅起訴しています。その後、9月22日に行われた初公判の罪状認否にて、天馬の元社長も起訴内容を認めています。ちなみに外国公務員に対して賄賂を支払った場合、法定刑としては5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金となります(法人の場合は3億円以下の罰金)。

このような流れを経て、今回、問題の早期解決を図るべく、天馬と元取締役側は損害賠償請求訴訟につき、和解することとなりました。和解金は、合計1億500万円、天馬側はその余の請求を放棄し他に債権債務などがないことを、お互いに確認するとしています。

 

コメント


今回、和解に至った損害賠償請求訴訟に先立ち、天馬内部では創業家一族間を含む社内対立が激化していたと言われています。上述のように、今回の損害賠償請求訴訟は、監査等委員会が提起しましたが、その背景には、反経営陣と連携している監査等委員会と現経営陣との対立があったという話もあります。実際、監査等委員の選任決議の際、監査等委員会は、取締役会の選ぶ監査等委員ではなく、自ら監査等委員を選ぶべく議案等提案権を行使しています(以下、「会社提案」)。これに対し、現経営陣を支持する投資ファンドが、監査等委員の選任議案について株主提案権を行使し(以下、「株主提案」)、会社提案と株主提案が競合する事態となりました。この事態に、現経営陣が多数派を占める取締役会は、株主提案を支持。その影響もあったのか、株主総会では株主提案が可決され、監査等委員の意向は反映されないままに終わっています。

海外子会社のコンプライアンス体制の整備、経営陣のコンプライアンス意識の向上、創業家一族間の社内対立を踏まえた総会対応など、自社で同様の問題が起こったと想像したときに、法務として頭が痛くなる難題が盛りだくさんです。

第三者委員会の調査報告書では、今回の贈賄事件が発生した原因として、以下を挙げています。

(1)外国公務員贈賄リスクに対して無防備なまま海外事業展開を行ったこと
(2)利益とコンプライアンスとを天秤にかける企業風土
(3)虚偽の経理処理を容認する統制環境
(4)十分な情報収集とその分析・検討に基づく意思決定の欠如

今後、天馬がどのようにコンプライアンス体制を再構築して行くのか、要注目です。

 

【関連リンク】
第三者委員会の調査報告書
 

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