来年度にも解禁予定、「デジタル給与払い」への動き
2022/09/14 労務法務, 労働法全般

はじめに
厚生労働省の審議会で13日、企業の賃金の一部をキャッシュレス決済口座などに振り込む「デジタル給与払い」を来年度にも解禁する方向で合意されました。残高上限は100万円とのことです。今回はデジタル給与払い制度を概観していきます。
制度導入の経緯
現行制度上では、労働者への賃金支払いは原則として現金となっており、例外的に銀行口座等への振込も可能となっております。政府はそれに加え、「ペイペイ」「楽天ペイ」といったキャッシュレス決済口座を加える方針としております。厚労省によりますと、このようなデジタル給与払いを推進する理由として、(1)新たな生活様式に対応した規制改革推進の一環、(2)外国人労働者の受け入れ拡充に向けた施策の一環、(3)キャッシュレス決済の推進、およびフィンテックを活用した金融サービスの拡大と国際競争力の強化、(4)厚労省の調査で約4割がキャッシュレス決済を検討すると回答していることなどが挙げられております。これを受け厚労省の審議会では来年度にも実現すべく大筋において合意に達したとしております。
現行法上の規制
労働基準法24条1項によりますと、賃金は通貨で直接労働者に、その全額を支払わなければならないとしております。ただし例外として、法令もしくは労働協約に別段の定めがある場合または厚生労働省令で定める方法による場合は通貨以外で支払うことができるとされます。これを賃金払いの原則と言います。また労基法施行規則7条の2によりますと、労働者の同意を得ることを条件に労働者が指定する銀行その他の金融機関に対する振込みによることが可能となっております。多くの企業で採用されている支払い方法と言えます。そしてこの賃金は毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならないとされます。ただし臨時に支払われる賃金、賞与その他については別となっております(労基法24条2項)。
デジタル給与払い制度案
労働政策審議会労働条件分科会で提示されている制度案の骨子として、使用者は労働者の同意を得た場合、一定の要件の下に厚生労働大臣が指定する資金移動業者の口座への資金移動の方法によって賃金を支払うことができるとされます。そして指定の要件としては、(1)破綻した場合に労働者に対して負担する債務を速やかに保証する仕組みを有していること、(2)労働者の責めに帰すことができない理由により損失が生じた場合に補償する仕組みを有していること、(3)ATMを利用することにより現金を受け取ることができ、最低月1回は手数料無しで受け取れること、(4)賃金の支払い業務の実施状況等について適時厚労大臣に報告できる体制を有すること、(5)その他業務を適正に実施する能力を有し、十分な社会的信用を有することなどとされます。デジタル給与払い制度による支払いの上限は100万円とされ、それを超える分については従来通り銀行口座等への振込となります。
デジタル給与払いのメリット
デジタル給与払いを利用するメリットとして、銀行口座を持たない従業員への支払いが可能となること、振込手数料の削減、従業員へ福利厚生の一環となることなどが挙げられます。まず外国人労働者等は日本国内で銀行口座を開設することが難しい場合があります。このような場合には従来は現金による支払い以外の選択肢がありませんでした。デジタル給与支払いが可能となることで外国人労働者への支払い方法の選択肢が増えることとなります。また従来から電子決済を利用している従業員に関して、決済アプリ等への残高チャージの手間が省略でき、従業員への福利厚生にもつながると言えます。さらに、新たな給与制度を積極的に導入する企業姿勢もアピールすることができます。
コメント
近年世界的に電子決済の利用が飛躍的に増加しております。それに伴い労働者への賃金の支払いもデジタル支払いによることが国際的な潮流となっております。日本でも来年度よりデジタル給与支払い制度が解禁され、従業員の同意の下、100万円を上限として資金移動業者のアカウントを通じて支払うことが可能となります。これにより上で触れたメリットが得られる一方で、資金移動業者が破綻した場合の補償や、マネーロンダリングの防止、不正出金の危険、システムダウン時の対応など様々なリスクも想定されます。デジタル給与払い制度を導入する、しないにかかわらずこれらの制度の概要や政府の動きなどの情報を逐一確認して準備しておくことが重要と言えるでしょう。
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