日本製紙クレシア、トイレットペーパーの特許権侵害で大王製紙を提訴
2022/09/07   知財・ライセンス, 特許法

はじめに


 日本製紙クレシアは6日、長さが通常の3倍あるトイレットペーパーの特許権を侵害されたとして、大王製紙に対し製造販売の差し止めと損害賠償を求め提訴したと発表しました。請求額は3300万円とのことです。今回は特許権とその侵害について見ていきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、日本製紙は、同社が製造販売する「スコッティ フラワーパック3倍長持ち」の柔らかさを保ったまま直径を抑える技術を侵害されたとして、大王製紙が販売する「エリエール i:na」など3製品について製造販売の差し止めと製品の破棄、3300万円の損害賠償を求め提訴したとされます。近年のコロナ禍による巣ごもり需要で、長巻タイプのトイレットペーパーの販売が伸び、他社でも同様の製品開発の動きがあったとされ、同社から特許侵害の懸念を伝えたところ求めに応じたとのことです。これについて大王製紙は訴状が届いておらずコメントは差し控えるとしております。

 

特許要件

 特許は著作権とは異なり、特許庁に出願し、特許査定がなされ登録料を支払って登録されることによって発生します(特許法66条)。そして特許が認められるための要件は、(1)産業上の利用可能性、(2)新規性、(3)進歩性、(4)先願、(5)公序良俗に反しないこととされております。特許制度は産業の発達に寄与することを目的としていることから(1条)、産業に利用できなければなりません。産業とは工業や農業、水産業等も含まれますが、学術、治療のみを目的とする場合は該当しないとされます。新規性は、公然知られた発明ではないこと、公然実施された発明でないこと、刊行物等に記載され公衆に利用可能となっていないこととされます(29条1項)。進歩性はその発明が属する技術分野において容易になし得ないものとされます。そして日本では先願主義が採られており、同一の発明では先に出願した者が特許を受けられるとされます(39条)。

 

特許権侵害

 特許権の侵害とは、特許発明の技術的範囲に属することにつき、業として実施することと言われております。実施とは物に関する発明の場合はその物について生産、使用、譲渡、輸出入等とされ、方法の発明ではその方法の使用行為、生産方法の発明ではその方法により生産した物の使用や譲渡等を言うとされます(2条3項各号)。さらに侵害の態様として直接侵害、間接侵害、均等侵害の3つに分類されるとされます。直接侵害とは、登録された技術的範囲の要件全てを満たす場合とされます。間接侵害は要件を全てみたさなくとも、特許侵害を誘発する可能性が高い行為を言います。そして均等侵害とは多少の違いはあるものの、実質的に特許発明と同一のものと言える場合を言います。

 

特許権侵害に対して

 特許権侵害がなされた場合、または侵害のおそれがある場合、特許権者はその侵害の停止、予防を請求することができます(100条1項)。この場合は通常民事保全法に基づいて仮処分の申し立てがなされることが一般的です。特許権侵害により損害を被った場合には不法行為として損害賠償請求を行うことが可能です(民法709条)。そして故意または過失によって特許権を侵害した場合は、一定の範囲で損害額が推定されます(102条)。これは通常原告側が立証すべき損害の額を被告側に立証する責任を負わせるというものです。また特許権侵害については刑事罰が設けられており、10年以下の懲役、1000万円以下の罰金またはこれらの併科となっております(196条)。

 

コメント

 本件で日本製紙は柔らかさを保ったまま直径を抑える技術に関する特許権を侵害されたとして、大王製紙のエリエールなどの販売差し止めと損害賠償を求めております。一般的に特許紛争では、特許要件の一つである進歩性について争われることが多いとされております。進歩性はその分野で容易になしえない発明であるというもので、発明の種類や分野によって判断が分かれると言われております。また特許発明の技術的範囲に属する要件を満たした実施にあたるかも争点となってくるものと考えられます。以上のように特許権は特許として認められること、またそれの侵害についてそれぞれ要件が存在し、複雑な判断が必要となる場合も多いと言えます。どのような場合に侵害となるのか、またそれに対し何ができるかを確認しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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