関電旧経営陣に「起訴相当」、検察審査制度について
2022/08/09   商事法務, 会社法, 刑事法

はじめに

 不起訴処分となっていた関電旧経営陣について、大阪第2検察審査会は1日、起訴相当とする議決を公表していたことがわかりました。市民団体は疑惑の全容を解明してほしいとしております。今回は検察審査制度についてみていきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、関西電力の元幹部らによる金品受領と役員報酬補填問題で、会社法の特別背任容疑で告発されていた森詳介元会長(81)、八木誠前会長(72)、岩根茂樹社長(69)の3人は不起訴処分となっていたとされます。これに対し市民団体は大阪第2検察審査会に審査申し立てをしていたとのことです。市民団体は、東日本大震災に伴う原発運転停止による経営悪化に関して役員報酬を減額したものの、役員退任後に嘱託として任用する形で総額約2億6000万円を補填していた点が悪質性が高いとしております。公募で集まった審査申し立て人は最終的に1371人にのぼったとのことです。

 

検察審査制度とは

 警察などから送検されてきた事件等について、検察官は嫌疑や証拠の状況などを勘案して起訴するか不起訴処分とするかを決定する権限が与えられております(刑事訴訟法248条)。検察官が不起訴処分とした際に、犯罪被害者やその親族、告訴・告発を行った者は検察審査会に審査の申し立てを行うことができます(検察審査会法2条2項、30条)。検察審査会は11名の検察審査員で構成され、選挙権を有する有権者からくじで選ばれることとなります(4条)。検察審査員は1年以上の懲役または禁錮に処された者や国務大臣、法曹、裁判所の職員など一定の公務員など欠格事由も存在します(5条、6条)。検察審査会は決議によって、起訴相当、不起訴不当、不起訴相当の3つの議決をすることができます(39条の5)。起訴相当、不起訴不当との議決が出た場合、検察官は再度起訴するか否かを検討することとなり、起訴相当の決議後再び不起訴となった場合には強制起訴に移行することとなります(41条の6、41条の9、41条の10)。

 

審査の手続き

 検察審査会の審査は犯罪被害者など一定の範囲に属する者による申し立て、または職権で開始され非公開で行われます。検察審査会では不起訴とした検察官に必要な資料の提出や不起訴とした理由の説明を求めることができます(35条)。また証人尋問や専門家による助言を求めることもできます(37条、38条)。そして検察審査会では上でも述べたように「起訴相当」「不起訴不当」「不起訴相当」の3つの決議を行うことができます。この決議は11人の審査員のうち過半数(6人以上)の賛成を要し、起訴相当の決議には3分の2以上(8人以上)の賛成が必要となります(27条)。起訴相当の決議後、再び検察官により不起訴処分となった場合、弁護士を審査補助員として再度審査をし、再び起訴相当となった場合は検察官に意見を述べる機会を与えた上で8人以上の多数により起訴決議がなされます(41条の4~6)。この場合、裁判所によって指定された弁護士が検察官に代わって起訴することとなります(41条の9~10)。

 

強制起訴事件

 これまでに検察審査会によって起訴相当の決議がなされ、最終的に強制起訴にいたった例は2010年の明石花火大会歩道橋事件、同年3月のJR福知山線脱線事故、2011年尖閣諸島中国漁船衝突事故、2015年の福島第一原発事故など10件となっております。そのうち最終的に有罪判決が確定した例は2011年の石井町ホステス暴行事件と2013年の松本市小6男子柔道過失傷害事件の2例のみとなっております。前者では最高裁で9000円の科料が確定しており、後者では長野地裁で禁錮1年執行猶予3年が確定しております。それ以外の強制起訴事例はほとんどが無罪となっており、控訴棄却や免訴判決が確定している例もあります。JR福知山脱線事故の事例でも最高裁で無罪が確定しております。

 

コメント

 本件で、関電が以前役員報酬を減額した分について、事後嘱託報酬という形で補填がなされたとして特別背任などに問われた部分で不起訴処分となっていたところ、市民団体は検察審査会に審査申し立てを行っておりました。検察は補填とは認められないと判断したものの、大阪国税局は嘱託報酬に仮装した所得隠しと認定しておりました。審査会は起訴相当の議決をしたと発表しました。今後再び検察の判断を経て、再び不起訴の場合は強制起訴に及ぶ可能性が高いと考えられます。以上のように災害による役員の過失や特別背任事件などは不起訴となることも多いと言えますが、検察審査会の決議によって指定弁護士による強制起訴となることも有りえます。一度は検察が断念した事件であることから、最終的に有罪となる確率は極めて低いのが現状ですが、それでも訴訟への対応を強いられることとなります。以前とりあげた役員等の責任なども踏まえ、どのような顛末があり得るのかを事前の確認しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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