着替え時間の賃金不払いで是正勧告、労働時間該当性について
2022/07/15 労務法務, 労働法全般

はじめに
従業員が制服に着替える時間分の賃金を支払っていなかったとして、飲食大手「フジオフードシステム」が労働基準監督署から是正勧告を受けていたことがわかりました。同社は着替えは労働時間に当たらないとしております。今回は労働基準法の労働時間該当性について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、「まいどおおきに食堂」などを全国で展開するフジオフードシステムのカフェでパートとして勤務する女性従業員が加入する「首都圏青年ユニオン」が記者会見で着替え時間分の賃金が支払われていないことを明らかにしました。更衣室での着替えは店舗への移動などで1日30分ほど時間がかかるとされますが、同社では労働時間に含まれていないとのことです。労基署はこれらの着替え時間は労働時間に該当するとして未払い賃金を支払うよう是正勧告を出しましたが、同社は拒否しているとされます。女性は昨年7月に同社を相手取り横浜地裁に提訴しております。
労働時間
労働基準法では、労働者の労働時間は1日8時間、週40時間を原則とし、それを超える残業をさせる場合には労組または労働者の過半数を代表する者との協定の締結が必要といった「労働時間」を基礎とする規定が多数置かれております(32条以下)。それではこの労働時間とは具体的どのようなものでしょうか。最高裁判例では労働時間とは使用者の指揮命令下に置かれている時間を言うとされます(最判平成12年3月9日)。そしてこれは明示または黙示の指示により労働者が業務に従事する時間が含まれるとされ、その該当性は客観的に判断されるとされております。つまり労働契約や就業規則などの定めによって決まるのではなく、客観的に見て労働者の行為が使用者から義務付けられたものと言えるか否かで判断されるということです。
着替えと労働時間
上で挙げた三菱重工長崎造船所事件では、就業規則に1日の所定労働時間を8時間と定め、作業場から更衣室までの移動や着替え、準備体操、資材の受出し、散水等の行為は所定労働時間外に行うものとされておりました。これらの行為も労働時間に該当し、割増賃金が発生するかが争われました。最高裁は上でも述べたように労働時間を使用者の指揮命令下に置かれた状態を言うとし、客観的に判断する立場を示した上で、更衣室での着替え、更衣室から作業場までの移動、資材等の受出しと散水については労働時間に該当するとしました。他方で正門から更衣室までの移動や洗身・入浴等は該当しないとしました。準備行為や着替えなど、事業所内で行うことを使用者から義務付けられている場合は、規則などで所定労働時間外に行うものと定められていても特段の事情が無い限り使用者の指揮命令下のものと評価できるとされております。
厚労省のガイドライン
厚労省が公表している「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」でも「労働時間」の定義を上記最高裁判例に準拠して定めつつ次の場合を労働時間に該当する行為として紹介しております。まず着用を義務付けられた所定の服装への着替え等、使用者によって義務付けられた業務に必要な準備行為。使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められ、労働から離れることが保障されていない状態での待機(手待時間)。参加することが業務上義務付けられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間などが労働時間に該当するとされます。これらの行為は労働契約や就業規則にどのように定められていても原則として労働時間に当たると判断されるということです。
コメント
本件で女性従業員は更衣室での制服への着替えと店舗への移動で1日30分ほど時間を要するとしております。会社側は更衣室での着替えは義務付けておらず、労働時間には該当しないとしております。川崎北労基署は、同店では制服の着用が義務付けられており、実態として更衣室での着替えを余儀なくされているとして労働時間に該当すると判断しました。今後訴訟では更衣室での着替えが黙示的にも義務付けられていると見ることができるか等が争点となっていくものと予想されます。以上のように労働時間に該当するかは使用者の指揮命令下にあると言えるかで決まり、それは契約や規則にかかわらず客観的に判断されます。特に業務の準備行為や着替え等はガイドラインでも原則として該当するとされております。社内で従業員に所定労働時間外にさせていることは無いか、就業規則にどのように規定しているか等を今一度確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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