東芝で再任の綿引氏が辞任/社外取締役について
2022/06/30 商事法務, 会社法

はじめに
東芝の株主総会で再任された社外取締役の綿引万里子氏が直後に辞任していたことがわかりました。同氏は同時に選任された社外取締役2人の選任に反対の立場を表明しておりました。今回は会社法が規定する社外取締役について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、東芝は28日に定時株主総会を開催し、取締役13人を選任する議案が可決されたとされます。その13人の中にはいわゆる「物言う株主」の海外投資ファンドの幹部2人が含まれており、東芝社外取締役であり同日再任された綿引万里子氏が2人の選任について、かねてから反対の意向を表明していたとのことです。これにより同社の取締役の半数がファンド関係者かファンドから推薦を受けた人物で占めることとなり、綿引氏は即日辞任の意向を表明し受理されました。綿引氏は「多くの株主から見て、多様性、公平性、バランスの良さが満たされていると見えるのか、若干問題があると感じた」としております。
社外取締役とは
社外取締役とは、社内で昇格した従業員ではなく、社外から招いた取締役を言います。社内の利害関係にとらわれずに中立・公正な立場で客観的に業務執行の決定と社内の監督が期待できます。欧米では古くから企業に社外取締役を置くことが一般的で、取締役の過半数を占めている会社も少なくありません。日本でもバブル崩壊前後に頻発した大企業の不祥事などを受け、コーポレートガバナンス強化を目的として導入され、会社法や証券取引所等が取りまとめるコーポレートガバナンス・コードで設置が義務付けられております。2018年以降社外取締役を2名以上選任している上場企業は90%以上にのぼると言われており、2021年の会社法改正で上場企業は最低1名の社外取締役の設置が義務付けられております。
社外取締役の要件
会社法では、特別取締役による議決の定めを置く場合と、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社である場合に社外取締役の設置が義務付けられておりました。それに加え、上でも述べたように2021年改正で監査役会設置会社(公開大会社に限る)で有価証券報告書の提出が義務付けられている会社も最低1名の設置が義務付けられました(327条の2)。社外取締役の要件は、(1)現在および過去10年の間に当該会社の業務執行取締役・執行役・支配人・使用人でなかったこと、(2)過去10年間に当該会社および子会社の取締役・会計参与・監査役であった場合、それらに就任前10年間で業務執行取締役等でなかったこと、(3)当該会社の株式を50%超保有していないこと、(4)兄弟会社の業務執行取締役等でないこと、(5)当該会社の役員等の配偶者または2親等内の親族でないこととなっております(2条15号)。
社外取締役と登記
社外取締役に限らず、取締役や会計参与、監査役等の役員や代表取締役が新たに選任されたり、退任した場合にはその旨の登記が必要となってきます(915条)。しかし社外取締役に関しては特殊な扱いとなっており、特別取締役による決議の定めを置いている場合、監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社である場合にのみ社外取締役である旨の登記が必要とされます。2021年改正での上場会社に設置が義務付けられている社外取締役に関しては現時点ではその旨の登記は求められておらず通常の取締役としての登記のみとなります。なお会計監査人以外の役員一般に関して、任期満了退任と辞任の場合、それにより必要な員数が満たなくなる場合は、後任が選任されるまで権利義務役員として残留することとなり、退任登記もできない点に注意が必要です。
コメント
本件で東芝の社外取締役に再任された綿引万里子氏(元名古屋高裁長官)はかねてより反対の意向を表明していた海外投資ファンド幹部2人の選任を理由に辞任したとされます。東芝は指名委員会等設置会社であるため各委員会の過半数は社外取締役であることが求められますが、現在同社の取締役12人のうち10人が社外取締役であり必要員数は確保されていると言えます。以上のように現在会社法では多くの場合で社外取締役の設置が求められております。上記のように社外取締役の要件はかなり複雑で、社外取締役を確保することは容易ではないと思われますが、近年法曹経験者やコンサルタント業務経験者、芸術家や元スポーツ選手など様々なバックグラウンドを持つ多様な人材が就任しております。社外取締役の設置を検討している場合は柔軟に人材の検討を行っていくことが重要と言えるでしょう。
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