物言う株主による提案が倍増、株主提案権について
2022/06/17 総会対応, 会社法

はじめに
大和総研のまとめによりますと、今年の定時株主総会でアクティビスト(物言う株主)から株主提案を受けた上場会社数が過去最多を更新していたことがわかりました。昨年から倍増したとのことです。今回は会社法の株主提案権について見直していきます。
事案の概要
産経新聞の報道によりますと、現在ピークを迎えている今年の定時株主総会で、アクティビストからの株主提案を受けた上場企業が36社に上っているとされます。昨年6月の17社からほぼ倍増したこととなります。特に海外投資ファンドのシルチェスター・インターナショナル・インベスターズとニッポン・アクティブ・バリュー・ファンドによる複数の企業への株主提案が全体数を押し上げているとのことです。大和総研によりますと、日本企業は割安な銘柄が多く、コーポレートガバナンスにも改善の余地があり、狙われやすいとされます。今後もこのように株主提案が増加していく見通しです。
議題提案権
株主提案権は大きく議題提案権と議案提案権に分けられます。議題とは会議の目的そのものと言える「取締役選任の件」「剰余金配当の件」といったものです。議案とはそれら議題に対する具体的な選択肢を言います。議題提案は取締役会設置会社では、総株主の議決権の1%または300個以上の議決権を保有(公開会社では6ヶ月前から)する株主が行うことができます(会社法303条3項)。この請求は株主総会の日の8週間前までに行う必要があります(同2項)。これらの要件は定款で緩和することも可能です。また提案できる議題は株主が議決権を行使することができる事項に限られます(同1項)。そして取締役会非設置会社の場合はこれらの要件は無く、株主であれば株主総会当日に提案することもできます。
議案提案権
株主は会社側の提案した議案に反対する議案、または修正する議案を提出することができます。議案提案自体には議題提案のような要件は存在しませんが、議案の内容が法令または定款に違反せず、また実質的に同一の議案につき、総株主の議決権の10%以上の賛成を得られなかった日から3年を経過している必要があります(304条)。一方で会社に対し、他の株主に提案した議案の内容を通知するよう請求することもできます。この通知請求を行うためには、取締役会設置会社では議決権の1%または300個(公開会社では6ヶ月前から)保有し、株主総会の日の8週間前までにする必要があります(305条1項)。つまり議題提案権と同様の要件が設けられております。取締役会非設置会社の場合、議決権に関する要件は無く、8週間前までに請求すれば良いこととなります。
会社側の対応
株主提案がなされた場合、株主総会参考書類に(1)株主提案である旨、(2)議案に対する取締役または取締役会の意見があるときはその内容、(3)株主の提案理由、(4)議案が役員等の選任に関する場合は候補者に関する事項等を記載することとなります(会社法施行規則93条1項各号)。複数の株主から同一内容の議案が提出されている場合は取締役等の意見や株主の意見は分けて記載する必要はありませんが、複数の株主から同一の趣旨の提案があった旨の記載が必要です(同2項、3項)。そして株主総会当日は提案された議題や議案を上程することとなります。これらの手続きに不備があった場合、招集手続きまたは決議方法に瑕疵があるとして株主総会決議取消の訴えの対象となります(831条1項1号)。また罰則として100万円以下の過料も規定されております(会社法976条19号)。
コメント
近年日本の上場企業では、外資系の機関投資家や投資ファンドによる積極的な介入が増加しております。定時株主総会での株主提案だけでなく、臨時株主総会の招集請求や、役員等の解任動議、社外取締役等の選任の提案、敵対的買収防衛策の廃止、TOBなど様々な動きが見られるようになりました。最近では東芝の組織再編案に対して筆頭株主である投資ファンドが反対を表明し、臨時株主総会が開催されるなど物言う株主の活動が目立つようになっております。日本の上場企業は投資介入しやすく、ガバナンス面でも改善の余地が多いと言われております。今後も株主による積極的な提案などが行われることが予想され、対応を誤れば訴訟に発展することも考えられます。これらの流れを踏まえて、株主からの提案などに対してどのような手続きが必要かを今一度確認して十分に準備しておくことが重要と言えるでしょう。
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