漁協団体に公取委が立入検査、団体と独禁法違反について
2022/06/08 コンプライアンス, 独占禁止法

はじめに
九州の漁協団体がノリ生産者に対して全量出荷を求めて取引していた疑いがあるとして公正取引委員会が7日、3団体に立入検査を行っていたことがわかりました。全国の漁協でも同様のルールを設けている疑いがあるとのことです。今回は漁協や農協などの団体と独禁法違反について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、九州有明海沿岸の3つの漁協団体、福岡有明海漁業協同組合連合会、佐賀県有明海漁業協同組合、熊本県漁業協同組合連合会は所属する養殖ノリ生産業者に全量を出荷するよう求める内容を書類に明文化していたとされます。強制力や罰則はないものの、以前からこの問題は関係者から指摘されており、国の5月の答申でもこの点が指摘され公取委が拘束条件付取引の疑いで立入検査に踏み切ったとのことです。公取委はノリの生産業者が漁協以外に販路を開拓できず、公正な競争が阻害されていた可能性があるとしております。3団体側は公取委の調査に全面的に協力しているとされます。
農協と独禁法
公正取引委員会は「農協と独占禁止法~農業関係各位の独占禁止法コンプライアンスのために~」という資料を公開し、農協等による独禁法上の実際の事件や処分例を紹介しております。この資料では平成2年の全農連合会による取引拒絶等の事件から令和元年のあきた北農協比内地鶏事件まで農協関連の独禁法違反事例が取り上げられております。あきた北農協の事例では、比内地鶏生産者との契約に際して、農協側が指定する買い取り業者以外への出荷が無く農協の定める計画を遵守できることを取引の条件とし、違反した場合は契約を解除して出荷停止ができる旨を盛り込んでおりました。公取委は拘束条件付取引に当たるおそれがあるとして警告しております。大分県農協の事例では、こねぎを大分県農協を通さず個人出荷したことを理由に味一ねぎ部会を除名し、味一ねぎとしての販売と集出荷施設の利用を禁止していたとされます。こちらでは取引条件等の差別取扱に該当するとして排除措置命令が出されております。これら以外では優越的地位の濫用や不当廉売の事例も取り上げられております。
拘束条件付取引
拘束条件付取引とは、「相手方とその取引の相手方との取引その他相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて、当該相手方と取引すること」とされております(一般指定12項)。これは独禁法が禁止する不公正な取引方法の1つで違反に対しては排除措置命令の対象となっております(19条、20条)。行為類型としては、取引先の制限、価格表示の制限、販売地域の制限、販売方法の制限、ライセンスに関する制限などが挙げられます。メーカーが卸売業者に対して安売りを行う小売業者への販売を制限する場合や、メーカーが流通業者に販売テリトリーを定めその範囲内での販売を義務付ける場合などが該当例と言えます。農協が農機具メーカーに農協を通さず農家に販売することを制限する場合や、農作物や海産物の全量出荷を義務付ける場合も該当すると考えられます。
取引条件等の差別取扱
取引条件等の差別取扱とは、「不当に、ある事業者に対し取引の条件又は実施について遊離な又は不利な取扱いをすること」を言うとされます(一般指定4項)。拘束条件付取引と同様に不公正な取引方法の1つで違反に対してはやはり排除措置命令の対象となります。取引の条件や実施のうち、取引制限や拒絶の場合、または対価についての差別取扱の場合は別途規定されていることから、これら以外の取引条件や実施に関するものが対象となります。具体的には商品の品質や規格、代金の支払時期、支払い方法、商品の引渡時期、配送方法などに関する差別取扱が該当すると言われております。上でも紹介した大分県農協の味一ねぎに関する事例も全量を大分県農協を通していた農家と個別出荷も行っていた農家とで集出荷施設の利用に関して差別的取扱を行っていたことからこれに該当するとされました。
コメント
本件で九州有明海沿岸の3つの漁協団体はノリ生産者に対し収穫したノリの全量出荷を求める条項を契約書に盛り込んでいた疑いが持たれております。これが事実であった場合、他の買い取り事業者等に個人取引ができず、独自の販路開拓が不可能となることから拘束条件付取引に該当する可能性があるとされております。以上のように農協や漁協などの大規模な業界団体では農家や漁師、養殖事業者だけでなく、関連機材のメーカーや卸売業者なども関連した独禁法違反事例が多数発生してきております。近年公取委もこのような団体を特に注視して個別に資料を作成するなどコンプライアンス意識の向上を呼びかけております。契約書などに他の事業者との取引や全量の出荷を条件とする文言が含まれていないか、出荷施設や販路の利用制限などが設けられていないかを今一度確認し直しておくことが重要と言えるでしょう。
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