ゼンリンが住宅地図の著作権侵害訴訟に関する判決内容を公表
2022/06/13   知財・ライセンス, 著作権法

はじめに


株式会社ゼンリンは、自社が発行する住宅地図の無断複製・頒布等を幾度も行っていたとして、ポスティング会社およびその代表者に対して著作権侵害差止等請求訴訟を提起しました。去る2022年5月、この訴訟の結果、ゼンリン側の主張が認められ、勝訴判決出されたため、ゼンリンは文書でその内容を公表しています。今回は、著作権侵害差止請求訴訟の概要や訴訟の内容について詳しく見ていきましょう。

 

著作権差止請求訴訟とは


著作権侵害行為に対する差止めの態様としては、①侵害行為をする者に対するその行為の停止の請求、②侵害の恐れのある行為をする者に対する侵害の予防の請求、③侵害行為を組成した物、侵害行為によって作成された物、侵害の行為に供された機械や器具の廃棄その他の侵害の停止・予防に必要な措置の請求、の3種類があります。このうち③の請求については①、②と同時にのみ請求が可能です。今回は、すでに他社による著作権侵害が認められる状況での差止請求のため、①の態様による請求となりました。
特許庁|著作権侵害への救済手続

 

訴訟の概要


ゼンリンの住宅地図は、自社の専門スタッフが現地調査を行い、日本全国1741市区町村の地域情報・住宅情報を網羅し、都市部においては毎年、都市部以外の地区においては2~5年に1回は情報を更新し、消費者に提供しています。ゼンリンの地図は配達・配送、行政サービスや社会インフラの保守などのさまざまな業務に活用されている、ゼンリンが誇る代表的な商品と言えます。ところが、2018年、ゼンリンの住宅地図帳と電子住宅地図デジタウンの印刷物に関して、他のポスティング会社が大量の無断複製をしている疑いが生じました。その後、ゼンリンは複数回に渡って、複製利用状況に関する情報開示と過去分の複製利用料の支払いを求めていたものの、当該業者はいずれの要求にも応じることがなかったため、2019年9月30日、ゼンリンは当該業者に対し侵害行為の差止等を求める訴訟(東京地方裁判所 令和元年(ワ)第 26366 号)を提起しました。

 

判決の内容


今回の訴訟では、「ゼンリンの住宅地図商品の著作物性」が主要な争点となっていましたが、判決ではこれが認定される結果となりました。東京地裁は、「住宅地図に必要と考える情報を取捨選択し、より見やすいと考える方法により表示したものということができる。したがって、作成者の思想又は感情が創作的に表現されたもの(著作権法2条1項1号)と評価することができるから、地図の著作物(著作権法10条1項6号)であると認めるのが相当である。」との判示しており、地図の作成者に著作権が認められた貴重な判例になります。また、これにより、(1)侵害行為の差止、(2)損害賠償金および遅延損害金の支払が命じられており、被告事業者は無断複製の禁止と各種支払い義務を負うことになります。

 

コメント


「地図」は、美術的要素が多分に含まれているものとは必ずしも言えないため、著作権法上の扱いが通常の書籍や芸術作品とは異なります。具体的には、学術的要素や感情、思想などがどの程度含まれているかによって著作物性の認定結果が異なると言われています。例えば、新撰組史跡ガイドブックの著作権侵害に関し争われた、東京地裁平成13年1月23日付判決では、地図の著作物性について次のように言及しています。
 


一般に、地図は、地形や土地の利用状況等を所定の記号等を用いて客観的に表現するものであって、個性的表現の余地が少なく、文学、音楽、造形美術上の著作に比して創作性を認め得る余地が少ないのが通例である。それでも、記載すべき情報の取捨選択及びその表示の方法に関しては、地図作成者の個性、学識、経験、現地調査の程度等が重要な役割を果たし得るものであるから、なおそこに創作性が表われ得るものということができる。そして、地図の著作物性は、右記載すべき情報の取捨選択及びその表示の方法を総合して、判断すべきものである。


このように、地図の著作物性については、玉虫色なところがあり、慎重な法解釈が求められます。そのため、他社の地図を利用する際には、細心の注意が必要となります。なお、ゼンリンは著作権侵害行為に対しては引き続き厳格に対応するとともに、今後も商品価値を高めていきたいとコメントしています。
 

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