日医工が私的整理へ、事業再生ADRとは
2022/05/16   事業再生・倒産

はじめに

 富山市に本社を置く東証プライム上場中のジェネリック医薬品メーカー「日医工」は13日、事業再生ADRを申請し受理されたと発表しました。2022年3月期末時点での借入金は1626億3100万円とのことです。今回は事業再生ADRについて見ていきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、日医工は富山第一工場での品質不正の件で昨年3月に富山県から約1ヶ月間の操業停止処分を受けていたとされます。昨年9月にメディパルホールディングスに対する約52億円の第三者割当増資を実施するなど再建を目指していたものの品質不正問題や薬価引き下げなどで業績悪化が拡大し、事業再生ADRによる再建を選択したとのことです。3月期の連結業績では約1049億円の赤字であったとされます。ジャパン・インダストリアル・ソリューションズ有限責任組合が最大200億円の出資の意向を表明しております。

 

事業再生ADRとは

 事業再生ADRとは、債務超過や支払不能のおそれがある企業の早期事業再生を支援するための制度です。「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」に基づく認証ADR制度に立脚した制度とされます。事業再生は一般的に私的整理と法的整理に分けられますが、事業再生ADRは、いわばその中間的な制度と言えます。私的整理は債権者と債務者の交渉によって進められますが、そこに裁判所とは違った中立的な第三者が仲介に入ります。仲介に入るのは産業競争力強化法49条1項に基づき経産大臣の認定を受けた「認証紛争解決事業者」とされます。認証紛争解決事業者には弁護士や公認会計士、金融機関などの有識者が所属し、スムーズに私的整理が進むようサポートされます。

 

事業再生ADRの手続き

 事業再生ADRの基本的な手続きの流れとしては、まず(1)債務者である企業が認証紛争解決事業者に事業再生ADR制度利用の申請を行います。(2)申請が受理されますと認証紛争解決事業者が債務者と連名で債権者に対して債権回収その他倒産手続きなどの一時停止の通知をします。(3)そこから2週間以内に事業再生計画の概要説明のための債権者会議が開催され、資産・負債状況、再生計画の概要説明、質疑応答がなされます。(4)その後事業再生計画案の協議のための債権者会議が開催され、公正かつ妥当で経済的合理性を有するものであるかについて意見陳述がなされます。(5)最後に事業再生計画案の決議のための債権者会議が開催されます。ここで全債権者が同意すれば私的整理が成立となりますが、1人でも不同意であれば法的整理に移行することとなります。

 

事業再生ADRの支援措置

 事業再生ADRではいくつかの支援措置が用意されております。まず事業再生ADR手続終了までに発生した商取引債権は、その債権額が少額であり、早期に弁済されなければ債権者事業者の事業に著しい支障を来すと紛争解決事業者が確認した場合、法的整理に移行しても裁判所が優先弁済を考慮できるとされます(産業競争力強化法59条~65条)。また紛争解決事業者が、資金繰りのために合理的に必要と認め、他の債権者全員の同意を得た場合も同様に法的整理移行御もつなぎ融資の優先弁済が考慮されます(56条~58条)。その他にも社債の元本減免措置やつなぎ融資の中小企業信用保険法の特例措置などが用意されております。

 

コメント

 本件で日医工は、ファンドから最大200億円の出資に関する基本合意書を締結したとしており、またメインバンクである三井住友銀行からも十分な融資枠を確保しているとしております。今後すべての債権者と事業再生計画案の合意を目指していくこととなります。以上のように事業再生ADRは私的整理の柔軟・迅速性と商取引の継続、そして法的整理の手続きの安定性と公平性を併せ持つ事業再生手続きと言えます。私的整理の手続きの不安定性や法的整理の事業価値の毀損といった欠点を補い、利用しやすい制度となっております。経産省の資料では、令和2年時点で81件の利用実績があり、そのうち55件で再生計画案の合意に達しているとされます。東証一部では田淵電機や曙ブレーキ工業で合意が成立しております。事業再生には今回紹介した事業再生ADR以外にも様々な制度が用意されております。自社の状況に応じた適切な制度選択を専門家の意見も踏まえて選択していくことが重要と言えるでしょう。

 

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