東海大浦安高に労基署が是正勧告、労働時間の把握について
2022/04/22   労務法務, 労働法全般

はじめに

 非正規雇用の20代男性教員に未払い賃金があったなどとして、東海大付属浦安高が労働基準監督署から是正勧告を受けていたことがわかりました。非常勤はタイムカードも使用していなかったとのことです。今回は従業員の労働時間把握について見ていきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、東海大浦安高では非常勤教員の賃金は1回の授業を1コマとして、週に担当するコマ数で賃金額を定める形態をとっているとされます。同校では1コマあたり60分(授業50分、準備・片付け各5分)とし、採点や生徒指導などの付随業務は「成績処理等」として20分に換算する扱いとされているとのことです。また正規教員はタイムカードによって勤怠管理がなされているものの、非常勤教員についてはタイムカードは使用されず、出勤簿にハンコを押すだけで正確な勤務時間の把握はなされていなかったとされます。これに対し労基署は未払い賃金の支払いと、出勤簿ではなくタイムカードなど客観的な方法により労働時間の把握をするよう是正勧告を出しました。

 

労働時間に対する規制

 労働基準法によりますと、使用者は労働者に原則として1日8時間、週に40時間を超えて労働させてはならないとされ(32条)、それを超える時間外労働をさせるには労働組合または労働者の過半数を代表する者と書面による協定を締結して労基署に届出る必要があります(36条)。その場合でも時間外労働には罰則付の上限が設けられ、原則として月45時間、年360時間を限度とし、臨時的な特別事情がある場合でも年720時間、複数月平均80時間、月100時間が限度となっております(同4項、5項、6項)。これに違反した場合には、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金となっております(119条1項)。このように労基法ではかなり厳格な労働時間規制を置いております。

 

労働時間の把握

 上記のように労働者の労働時間は厳格な規制に服しますが、使用者側が労働者の労働時間を正確に把握していなければ意味がありません。そこで使用者は労働時間を適正に管理するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認して記録することが求められます。これは単に1日何時間働いたかを把握するだけでは不十分で、タイムカード、ICカードなど客観的な記録を基礎として確認し記録するか、使用者自ら現認することが求められております(労働安全衛生法66条の8の3、安全衛生規則52条の7の3)。PCのログイン・ログアウトの時刻で確認することも可能とされます。そしてこれらによって確認された労働時間の記録は3年間保存することが求められます(労基法109条)。

 

自己申告制による確認の場合

 厚労省のガイドラインによりますと、上記の方法によることなく、自己申告制により始業・終業時刻の確認を行わざるを得ない場合は次の措置を講ずることが必要とされます。(1)自己申告制を導入する前に、対象となる労働者に対し十分な説明を行うこと。(2)申告された労働時間が実際の労働時間と合致しているかを必要に応じて実態調査を実施すること。(3)労働者の労働時間の適正な申告を阻害する目的で時間外労働時間数の上限を設定するなどの措置を講じないこととなっております。また時間外労働削減の社内通達や、残業代の定額払いの措置が、労働者の適正な労働時間申告を阻害する要因となっていなかについて確認し、改善のための措置を講ずることも求められております。

 

コメント

 本件で東海大浦安高では非常勤教員についてはタイムカード等による始業と終業時刻の管理はなされておらず、カレンダーのような出勤簿にハンコを押すだけであったとされます。そのため実際には長時間の時間外労働等が発生していても、ほぼ定額の「コマ給」が支払われ、多くの未払い賃金が生じていた疑いがもたれております。船橋労基署はこれらの点について是正勧告を出しました。以上のように労基法では厳格な労働時間規制が置かれ、さらにそれらの規定の実効性を確保するべく使用者には客観的な方法による労働時間の把握が義務付けられております。この規定に関しては罰則はありませんが、違反している場合は本件のように労基署による是正の対象となります。常勤・非常勤にかかわらず、自社の従業員の勤怠管理について客観的で正確な方法がとられているかを今一度確認しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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