吉野家が不適切発言で常務を解任
2022/04/20   総会対応, コンプライアンス, 会社法

はじめに
牛丼チェーン大手「吉野家」の常務が大学の社会人向け講座で不適切発言をした問題で、同社が問題の常務を解任していたことがわかりました。今後同社とは契約関係は一切無いとのことです。
事案の概要
報道などによりますと、吉野家の伊東正明常務(49)は16日、早稲田大学主催の社会人向け講座で、「生娘がシャブ漬けになるような企画」「田舎から出てきた右も左もわからない若い女の子を無垢・生娘なうちに牛丼中毒にする。」などと不適切な発言を行い、講座参加者によってネットで拡散したものとされます。同社には批判が殺到し、18日に開催された臨時取締役会で吉野家ホールディングス執行役員および、その子会社である株式会社吉野家の常務取締役の地位を解任したとのことです。同社は今回の事態を重く受け止め、グループ内でのコンプライアンス研修を5月に開催し、コンプライアンス遵守の徹底に取り組むとしております。
役員の選任・解任
取締役、監査役、会計参与などの会社役員と株式会社との関係は委任の関係に立ち、株主総会によって選任し、当人の承諾によって成立します(会社法329条1項)。会計監査人は役員ではありませんが同じように株主総会によって選任されることとなります。これに対して代表取締役は取締役会で、取締役の中から選定されることとなります(362条2項3号)。そのため代表取締役を解職する場合も同様に取締役会決議によることとなります。しかしその前提としての取締役の地位についてはやはり、その選任と同様に株主総会の決議によります。つまり取締役会によって役員等の地位を解任することまではできないと言えます。
役員選任の手続き
上記のとおり取締役等の役員の選任は株主総会の普通決議によります(329条1項)。普通決議とは議決権を行使できる株主の過半数が出席し、そのうちの過半数の賛成による決議を言います。通常この普通決議の定足数は定款により排除できますが、役員選任については3分の1までしか減少させることはできません(341条)。なおこの規定は会計監査人には適用されず、定足数を排除することも可能です。監査役の選任議案を提出する場合は監査役または監査役会の同意を要します(343条1項、3項)。役員の選任がなされた場合、その日から2週間以内にその旨の登記をする必要があります(911条3項13号等)。これを怠った場合は100万円以下の過料となります(915条1項、976条1号)。
役員解任の手続き
取締役等の役員や会計監査人の解任も選任と同様に株主総会の普通決議によることとなります(339条1項)。この場合も選任と同様に定足数に関する特則が適用され、役員については3分の1未満とすることはできません。なお監査役の解任については普通決議ではなく特別決議となります(343条4項、309条2項7号)。また会計監査人については、職務上の義務違反やふさわしくない非行、心身の故障等で職務に支障がある等の場合には監査役全員の同意によって解任することも可能です(340条1項等)。このように役員等は原則としていつでも株主総会の決議によって解任することができますが、解任に正当な理由がある場合を除き、残りの任期分の報酬相当額の賠償請求がなされる場合があります(339条2項)。そしてやはり選任の場合と同様に解任の日から2週間以内に登記することが求められます。
コメント
 本件で吉野家ホールディングスは、臨時取締役会を招集し、問題発言をした伊東正明氏を執行役員および、吉野家常務取締役から解任したと発表しております。同氏の同社内での地位の詳細は不明ですが、会社法に規定されていない同社独自の地位であれば取締役会決議によって解任することも可能と考えられます。一方で上記のように会社法上の取締役であった場合は、その選任と解任は株主総会決議を要することから、今後臨時株主総会が招集され、解任議案が提出されるものと予想されます。以上のように会社法では、役員等の選任、解任についてかなり詳細な規定を置いており、原則として株主総会決議を要します。定足数などについても特則が置かれ、これらの手続きに不備があった場合、後々訴訟に発展する場合もありえます。
 自社の取締役が解任相当の不祥事を起こした場合、即座にコンプライアンス面での対応(事実確認、声明発表、再発予防策の策定etc.)を迫られると同時に、会社法にしたがった適切な解任手続きを遂行する必要が生じます。法務として、どのような場合にどのような手続きが必要となるかを平時から把握しておくことが重要と言えるでしょう。
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