愛知製鋼の元専務らに無罪判決、営業秘密の要件について
2022/03/22   コンプライアンス, 不正競争防止法

はじめに

 愛知製鋼の磁気センサーに関する情報を漏らしたとして、不正競争防止法違反の罪に問われた元専務らの裁判で18日、名古屋地裁は無罪判決を言い渡していたことがわかりました。一般化された情報で営業秘密の開示とは言えないとのことです。今回は不正競争防止法の営業秘密の要件について見直していきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、鉄鋼メーカー「愛知製鋼」(愛知県東海市)の元専務と元社員の2人は、2013年に同社の磁気センサーの製造に必要な装置に関する秘密をホワイトボードに示すなどして取引先の電子部品メーカー側に漏らしていたとされます。会社側は開示された秘密は同社のセンサー製造の根幹技術であるとしており、2人は不正競争防止法違反の罪で起訴されていたとのことです。これに対し2人は、メーカー側に説明した内容には同社の独自ノウハウは含まれておらず、営業秘密には該当しないと反論しており、これらの開示された情報が営業秘密に該当するかが主な争点となっていたとされます。

 

不正競争防止法による規制

 不正競争防止法では、「営業秘密」に該当する情報を不正の目的や手段で漏洩したり使用する行為を不正競争行為の一種として禁止しております(2条4号~10号)。違反に対しては民事上・刑事上の責任が課されており、不正競争によって営業上の利益を侵害されるおそれがある者は差止請求をすることができます(3条)。故意過失による場合は損害賠償の責任を負い、損害額の推定規定もおかれれております(4条、5条)。また罰則として10年以下の懲役、2000万円以下の罰金またはこれらの併科が規定されております(21条1項)。以下規制の対象となる「営業秘密」の要件について具体的に見ていきます。

 

営業秘密3要件

 不正競争防止法上の「営業秘密」に該当するためには、(1)秘密管理性、(2)有用性、(3)非公知性の3要件を満たす必要があるとされております。秘密管理性はどのような情報が秘密として扱われているかを社内で明確化することによって予見可能性を与え、経済活動の安定性を確保することが趣旨とされます。経産省のガイドラインによりますと、どの程度の秘密管理措置が必要かは企業の規模、業態、従業員の職務、情報の性質その他の事情によって異なり、従業員が一般的に容易に認識できる程度である必要があるとされます。有用性が認められるためには、その情報が客観的にみて、事業活動にとって有用である必要がありあます。秘密管理性と非公知性が認められる場合は通常有用性は認められるとされます。非公知性とは一般的に知られておらず、また容易に知ることができない状態を言います。刊行物やインターネット上で公開された情報は該当しないとされます。

 

秘密管理措置の具体例

 経産省のガイドラインでは営業秘密の具体的な秘密管理措置が挙げられております。紙媒体の場合はファイルなどで一般情報から区分した上で「マル秘」などの表示したり、施錠可能なキャビネットや金庫に保管すること、コピーやスキャン、撮影の禁止、配布コピーの回収、自宅持ち帰り禁止などがあります。電子媒体の場合も紙媒体と同様に「マル秘」表示が有効で、パスワードなどによりアクセス制限が重要です。製造機械や金型、新製品の試作品など物件に秘密が化体している場合は扉に「関係者以外立入禁止」の張り紙を貼る、警備員を置き入室者をID管理する、写真撮影禁止の張り紙をする、営業秘密に該当する物件リストを作成し社員に共有化するなどが挙げられます。そのた無形のノウハウなどについても営業秘密としてリスト化したり文書にして共有化することが有効とされます。

 

コメント

 本件で開示された情報の詳細は不明ですが、磁気センサーの製造に必要な装置に関するものであったとされます。これらの情報が営業秘密に該当するかが争点となっておりましたが、名古屋地裁は「説明した情報は愛知製鋼の工程と大きく異なる部分がある上、抽象化、一般化されすぎている」として営業秘密の開示には該当しないと判断しました。一般的に営業秘密に関する訴訟では秘密管理性が争点となることが多いと言えますが、本件では営業秘密該当性というよりも、開示行為自体があったのかという点が問題となっていたように思われます。以上のように不正競争防止法の営業秘密の漏洩に該当するかについては基本的に3つの要件が問題となります。特に秘密管理性については会社の規模や業態、秘密の内容などで必要な措置の程度も変わってきます。今一度自社での管理体制について見直しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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