東京地裁で元ソフトバンク社員の初公判、営業秘密3要件について
2021/12/08   コンプライアンス, 情報セキュリティ, 不正競争防止法

はじめに

携帯電話大手ソフトバンクの秘密情報を社外に持ち出したとして、不正競争防止法違反の罪に問われた元社員の初公判が7日、東京地裁で開かれました。被告は営業秘密にあたると認識していなかったと主張しているとのことです。今回は不正競争防止法が規制する営業秘密の3要件について見ていきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、ソフトバンク元社員の合場邦章被告(46)は同社に勤めていた2019年12月に超高速・大容量通信規格「5G」の技術情報を持ち出し、翌1月に楽天モバイルに転職したとされます。検察側の主張では合場被告は持ち出した情報を楽天モバイル内で利用できる状態にしていたとされ、転職の際に楽天モバイルの知人にLINEで「機密情報を持ち逃げしたのでがっつりやりましょう」とのメッセージを送っていたとのことです。初公判で弁護側は持ち出した情報にはパスワードが設定されておらず、また他社にとって利用価値もなかったと主張しております。

 

不正競争防止法による規制

 不正競争防止法2条1項4号~10号では、窃取、詐欺、強迫その他の不正手段による営業秘密の取得や不正取得した営業秘密の使用、開示、正当に保有する営業秘密の不正な目的での使用などが不正競争行為の一種として禁止されております。また不正の利益を得る目的、または損害を加える目的での取得行為などには罰則として10年以下の懲役、2000万円以下の罰金またはこれらの併科となっております。被害を受けた側は侵害行為の差止請求(3条1項)、廃棄請求(同2項)などの他に損害賠償請求ができることとなっており(4条)、侵害行為で得た利益が損害額であるとの推定規定が立証困難の緩和を図っております(5条)。

 

営業秘密3要件

 (1)秘密管理性

 不正競争防止法の対象となる営業秘密に該当するためには秘密管理性、有用性、非公知性の3つの要件を満たす必要があるとされております。秘密管理性は当該情報が秘密として管理されている状態を言います。マル秘と表示されていたり、パスワードで閲覧者を管理されているといった場合です。どの程度の措置が必要かについて経産省のガイドライン(営業秘密管理指針)によりますと、企業が当該情報を秘密であると単に主観的に認識しているだけでは不十分で、秘密管理意思が具体的状況に応じた合理的な管理措置によって従業員に明確に示され、結果として従業員が秘密管理意思を容易に認識できる必要があるとしております。

(2)有用性

 営業秘密として保護の対象となるためには有用な情報でなくてはなりません。販売や研究開発などの事業活動に直接または間接的にでも役立つ内容であることが客観的に認められる必要があります。秘密管理性や非公知性が認められるような情報であれば基本的にこの有用性が否定されることは稀だとされております。なお企業の違法行為や不祥事に関する情報は有用性が否定されると言われております。

(3)非公知性

 非公知性はその情報がいまだ一般に入手できない状態であることを言います。具体的には新聞や雑誌、ネットなどに掲載されておらず、保有者の管理化以外では入手できないといった状態です。情報の一部に公知の情報が含まれていたりしても非公知性は失われないとされます。

 

秘密管理性に関する裁判例

 秘密管理性が問題となった事例で、紙媒体の顧客名簿にマル秘の押印がなされ、書類保管庫に施錠されて保管され鍵も代表取締役が管理していた例で秘密管理性が肯定されております(東京地裁平成11年7月23日)。他方紙媒体の顧客名簿にマル秘の押印がなされていたものの、カウンターの裏側に施錠無しで収納されていた事例でも秘密管理性が肯定されております(大阪地裁平成8年4月16日)。マル秘の押印はあるものの、同様の内容がパスワードが設定されていないPCにも保存されていた例では否定されております(東京地裁平成10年11月30日)。データベース化された顧客名簿では、毎日変更されるパスワードで管理されプリントアウトにも役員の押印がある書類を要求し、社外に持ち出すには社長の決済を要求していた事例では肯定されておりますが(東京地裁平成17年6月27日)、従業員が日常的に使用できるPCにパスワードも設定されずに保管されていた顧客名簿は秘密管理性が否定されております(知財高裁平成24年2月29日)。

 

コメント

 本件で合場被告がソフトバンクから持ち出した情報は大容量通信規格「5G」の情報や基地局に関する情報であるとされております。被告側は営業秘密とは認識していなかったとし、またパスワードが設定されていなかったと主張しております。非公知性や有用性は認められる可能性が高いと言えますが、秘密管理性については今後主な争点となっていくものと予想されます。以上のように不正競争防止法で保護される営業秘密といえるためには3つの要件を満たす必要があります。その中でも秘密管理性を満たすかどうかが争点となることがもっとも多いと言えます。経産省もこの点についてガイドラインを公表しておりますが、基準としては明確とは言えないからです。また営業秘密が持ち出された事例の大半は社員が転職や退職するときだと言われております。今一度自社での情報の管理状況や社員の退職の際のアクセス状況などを見直しおくことが重要と言えるでしょう。

 

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