車椅子での入店巡る訴訟、「合理的配慮」とは
2021/10/27 コンプライアンス

はじめに
車椅子での入店を断られるなどの差別を受けたとして、電動車椅子で生活する男性が大手スポーツジム運営会社を相手取り慰謝料などを求めた訴訟の判決が28日に出る見通しです。「合理的な配慮」の有無が争点となっていたとのことです。今回は障害者差別解消法について見ていきます。
事案の概要
毎日新聞によりますと、原告の男性は新宿区内のジムがオープンした2012年から会員として利用していたところ、翌2013年に脳出血で半身不随となり電動車椅子での生活を余儀なくされていたとされます。その後も同ジムの利用を継続し、ジム内の受付付近に車椅子を置いて歩行訓練やトレーニングを行っていたとのことです。しかし19年頃に同ジムの支配人が代わってから車椅子を入り口脇のスペースに置くよう指示され、これまでの場所に置かせてほしいと求めたところ、ジム内では歩いているのだから歩いてくるよう言われたとされます。その後ジム側は危険な車椅子での移動や従業員への威嚇行為に及んだとして会員から除名し利用禁止としたとのこです。
障害者差別解消法とは
障害者差別解消法は、平成19年に障害の権利に関する条約に署名したことを契機に、同条約の批准に向けて平成23年に改正された障害者基本法の差別禁止基本原則を具体化したものとして制定されました。正式名称は「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」で障害のある人も無い人も互いにその人らしさを認め合いながら共に生きる社会をつくることを目指しているとされます。この法律では不当な差別的取り扱いの禁止だけでなく、自治体や事業者に合理的な配慮の提供をも求めております。以下具体的に見ていきます。
差別解消措置
障害者差別解消法では、行政機関や事業者に、「その事務又は事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない」としております(7条1項、8条1項)。ここに言う事業者とは、営利・非営利、個人・法人問わず、同種の行為を反復継続する意思をもって行う者とされます。禁止される差別は、客観的に正当かつやむを得ないと認められる特別な事情なくして、障害を理由に不当な差別的取扱をすることと言われております。具体的には受付拒否や障害者向けの物権は無いといって拒絶すること、介助者がいないと入店できないと言って断ることなどが挙げられます。合理的配慮とは社会通念上と認められる人的、物的、経済的負担の範囲内で障害の無い人と平等な待遇を確保するための措置を言うとされます。車椅子を押して店内を案内する、障害者の代わりに入力する、絵やタブレット等を使って説明するといった例が挙げられます。
合理的配慮に関する裁判例
障害者に対する合理的配慮が問題となった事例として、精神障害を理由とするインターネットカフェの利用拒否が違法とされたもの(東京地裁平成24年11月2日)や脳性麻痺による機能障害を理由に航空会社が搭乗を拒否したことについて、事前に連絡されていれば拒否事由とはならないとした例があります(大阪高裁平成20年5月29日)。一方、銭湯の浴室内に車椅子で入ることを拒否した例では、他の利用客の安全確保や衛生面から適法とされたと言われております(東京地裁平成25年4月22日)。他の利用客の安全性や事業者側への過度な負担、障害者側の不利益の程度などから個別的に判断されているものと考えられます。
コメント
本件では脳出血により下半身付随となった利用客が車椅子でジムの受付まで行って、そこに置いて利用することを拒否することが「合理的な配慮」を欠いていたことになるかが問題となっております。原告側の主張ではこれまでジムは長年そのような対応を拒否しなかったとされます。一方ジム側は他の利用客の安全確保上必要であったと反論しているとのことです。いずれの結論が出ても不思議は無いと考えられ、裁判所の判断に注目されます。以上のように事業者は障害者を差別的に取り扱うことが禁止され、また合理的な配慮も求められております。しかしこれは事業者に過剰な負担を強いるものではなく、どの程度の配慮が必要かは個別の事案により異なります。自社ではどの程度の措置が必要か、またどこまでが限界かを今一度検討しておくことが重要と言えるでしょう。
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