同志社教員が「賃金未払い」等で指導求める、労基法の申告制度について
2021/08/25 労務法務, 労働法全般, その他

はじめに
同志社女子中・高(京都市上京区)で英語の授業を担当する嘱託教員の外国人女性3人が時間外割増賃金が支給されていないのは違法であるとして労基署に労基署に是正指導を求めていたことがわかりました。このうち2人はすでに解雇されているとのことです。
今回は労基法が規定する労働者の申告制度について見ていきます。
事案の概要
報道や労働組合の発表によりますと、同志社女子中学・高校で英語を担当していた3人は、学校側から就業時間などの労働条件が書面で明示されず、また時間外の割増賃金も支給されていなかったとして学校法人同志社に是正を求めていたとされます。
3人のうち2人は既に解雇されており、学校側は更新制限があることや2年以上は働けないことを解雇理由としているとされますが、労働契約や就業規則にその旨の記載は無いとのことです。
また同志社大学では有期雇用契約の准教授は60歳以降は自動的に30%減給されるとされ、この点についても労働審判を申し立てられております。
労基法による申告制度
労基法104条1項によりますと、事業場に、労基法や関係法令等に違反する事実がある場合、労働者はその事実を行政官庁や労働基準監督官に申告することができるとされます。
割増賃金不払いや協定の無い時間外労働、休憩時間や休日が無いといった労基法違反等が事業場で発生している場合に、労働者が労基署に対して調査や指導、是正を求めることができるということです。
なお使用者は、労働者がこの申告を行ったことを理由として労働者に対し解雇その他の不利益な取り扱いをしてはならないとされており(同2項)、これに違反した場合には罰則として6ヶ月以下の罰金または30万円以下の罰金が規定されております(119条1号)。
申告がなされた場合の監督指導の流れ
労働者によって上記申告が労基署になされた場合、労基署による調査・監督が開始します。
一般的には労働基準監督官による事業場への訪問、立入検査、事情聴取、帳簿の確認などが行われます。それにより法令違反事例が認められた場合には、文書による指導、是正勧告、改善指導、使用停止命令などがなされます。
これにより事業場からの是正・改善報告がなされ、改善したことが確認された場合には監督指導は終了となります。しかし再度の監督が実施されるなどしても改善が見られない等、重大悪質な事案の場合には刑事事件として送検されることとなります。
定期監督と監督官の権限
労基署による監督には上記の申告監督の他に定期監督と呼ばれるものも存在します。定期監督とは、その年度における監督計画に基づき、調査対象となった企業の法令遵守状況全般を調査するものです。
これは抜き打ちで行われる場合もあれば書面や電話で予告される場合もあります。監督を行う労働基準監督官は、監督を受ける事業場に昼夜いつでも自由に予告なしで立ち入り調査ができるとされ、調査のために事業場の帳簿書類を確認したり従業員や使用者に尋問を行うことができるとされております(101条1項)。
またこれらの臨検や尋問を妨げたり、帳簿書類を提出せず、また虚偽の記載をした書類を提出した場合には、罰則として30万円以下の罰金が規定されております(120条)。
コメント
本件で嘱託教員側は、就業時間などの労働条件が書面で明示されず、時間外の割増賃金も支払われていなかったとしております。また解雇理由とされる更新制限等は就業規則や労働契約に記載がなかったとされます。
これらが事実であった場合には労基関連法令に違反している可能性があり、労基署による調査等が行われるものと予想されます。
以上のように事業場で労基法違反等がある場合、労働者は労基署に申告することができます。近年このような労働者による申告は増加傾向にあり、1つの都道府県で年間数1000件の申告がなされていると言われており、そのうち労基署の調査により6~7割で違反が見つかっているとされております。
コロナ禍による業績悪化が懸念されますが、今一度就業規則や36協定など労基法所定の手続きがなされているか確認し直しておくことが重要と言えるでしょう。
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