労働審判で解雇無効判断、雇い止めの適法性について
2021/08/24 労務法務, 労働法全般, その他

はじめに
旧苫小牧駒沢大学(現北洋大)の教員2人が不当に解雇されたとして札幌地裁に申し立てていた労働審判で、解雇を無効と判断していたことがわかりました。大学側は異議申し立てを行い民事訴訟に移行するとのことです。
今回は有期雇用契約の雇い止めの適否について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、2018年に苫小牧駒沢大学の運営が駒沢大学から京都育英館に移管したことに伴い、同大の教員2人は京都育英館と雇用契約を締結して19年3月まで勤務したとされます。
しかしその後契約は更新されず、2人は契約の際に学校側から期間を1年にしたのは既に定年を超えている者も含めて希望者全員を雇用するためだと説明されたとし、また就業規則にも専任教員は期間の定めの無い契約と明示されているとして、更新を期待する合理的理由があったとして労働審判を申し立てました。
これに対し学校側は、経営が変わったことから駒沢大学時代の地位は通用せず、継続雇用は勝手な思い込みであり、1年間の満期退職であると反論しているとのことです。
労働契約法による規制
労働契約法19条によりますと、
有期労働契約がこれまで反復して更新されており、更新しないことが無期雇用労働者を解雇するのと社会通念上同視できる場合(1号)または有期労働契約期間の満了時に契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由がある場合(2号)
は、雇用者は更新拒絶するにつき、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要とされております。
これら合理性と相当性が認められない場合は従前の労働契約と同一の条件で更新したものとみなされます。有期雇用であるからと言って会社側の都合で自由に雇い止めができるというわけではないということです。
更新拒絶の適否の判断
労働契約法19条1号の更新が反復しており無期雇用と同視できる場合については、実際に更新がなされてきているという事実が重要で、更新手続きが形骸化している場合には継続雇用を前提としていると判断される要素となります。
逆に雇用契約書等や更新の際に雇用期間の上限が明示されていたり、特別な事業を目的とするものである場合には該当しない方向に判断されうる要素となります(福岡地裁令和2年3月17日等)。
そして同条2号の更新を期待することに合理的な理由がある場合については、
雇用の臨時性、常用性、更新回数、通算期間、契約期間管理の状況、雇用継続の期待をもたせる使用者の言動などを総合考慮
して判断するとされております(平成24年8月10日通達)。
無期転換ルール
これまでも取り上げてきましたが、有期雇用が更新されて通算5年を超えたときは労働者の申込みにより無期雇用契約に転換されます(18条)。
契約期間が1年の場合は5回目の更新後の1年間に、契約期間が3年の場合には1回目の更新後3年間に無期転換の申込権が発生します。これにより労働者が使用者側に無期転換の申込みをした場合には使用者は拒絶することができず、当然に無期雇用契約となります。
この無期転換ルールを回避するために雇用期間が通算5年となる前に雇い止めがなされる場合が多く発生しており問題化しておりますが、この場合にも上記と同様に雇い止めの適否が判断されることとなります。
コメント
本件で原告側の主張によりますと、運営が駒沢大学から京都育英館に移管する前は期間の定めがない契約であったが、移管に際して契約期間が1年とされたとのことです。その際すでに定年を迎えている者も含めて希望者全員を雇用するために1年としていると説明されたとされます。
労働審判委員会は雇用継続を期待するにつき合理的な理由があったとして解雇を無効としました。これまでの雇用期間や雇用状況、学校側の説明のしかたなどから期待することの合理性を認めたものと考えられます。
以上のように有期雇用労働者を雇い止めにする場合には両者の様々な事情や言動、状況などから適法性が判断されます。近年、無期転換回避やコロナ禍による雇い止めも多く発生していると言われております。自社の有期雇用労働者との更新状況や、どのように説明しているかを今一度確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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