トヨタが労災認定で遺族と和解、パワーハラスメントについて
2021/06/10 労務法務, 労働法全般, その他

はじめに
トヨタ自動車は7日、2017年に同社社員が自殺したのは上司のパワハラが原因であったとして労災認定されたことを受け、遺族と和解志再発防止策を発表しました。
和解金はすでに支払われているとのことです。今回は近年規制の動きが強化されているパワハラについて見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、東大大学院を終了して2015年4月にトヨタ自動車に入社した男性は、配属された部署で直属の上司から「死んだほうがいい」などの暴言や叱責を日常的に受けていたとされます。
一旦休職したものの、2016年10月に復職した際、元の上司と近い席となり、2017年10月に寮の自室で自殺していたとのことです。男性は「死んで楽になりたい」などと周囲にもらしていたとされております。
男性の自殺はパワハラが原因であるとして労災認定されたことを受け、同社は遺族に和解金を支払い、パワハラを行っていたとされる上司は就業規則に基づき処分したとのことです。
パワーハラスメントとは
労働施策総合推進法30条の2によりますと、職場におけるパワーハラスメントとは、
(1)優越的な関係を背景とした言動であり、
(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
(3)労働者の就業環境が害されるもの
とされております。
「優越的な関係」とは上司など職務上の地位が上位な場合だけでなく、同僚や部下であっても経験や知識面等で優れており、その者の協力を得なければ円滑な業務遂行ができない場合も該当します。
「業務上必要かつ相当な範囲」は社会通念に照らして、言動の目的や労働者の問題行動の有無、内容、程度、頻度、経緯、状況、業種、業態、業務の内容、など様々な要素を総合的に考慮されます。
「就業環境が害される」とは、平均的な労働者の感じ方を基準に、就業環境が不快なものとなったため能力の発揮に重大な悪影響が生じるといった場合を指すとされております。
パワハラ6類型
パワハラに該当する行為は多種多様と言えますが、代表的なものとして6つの類型が挙げられております。
(1)身体的な攻撃
(2)精神的な攻撃
(3)人間関係からの切り離し
(4)過大な要求
(5)過小な要求
(6)個の侵害
厚労省の資料では、逆にパワハラに該当しない例として、誤ってぶつかる、再三注意しても改善されない労働者に対する一定程度強く注意する、新規採用の育成のため短期集中的に別室で研修させる、育成のため現状より少し高いレベルの業務を任せる、労働者の能力に応じて一定程度業務を軽減する、労働者への配慮を目的として家族状況等についてヒヤリングを行う、本人の了解を得て機微な個人情報を必要な範囲で労務部門に伝達する、などが挙げられております。
パワハラ防止義務
2019年6月5日公布された改正労働施策総合推進法が昨年2020年6月に施行されました。これによりますと、企業は職場でのパワハラを防止するため一定の措置を講じることが義務付けられました。
厚労省告示に示された具体的な措置としては、
(1)企業は職場におけるパワハラに関する指針を明確化し、労働者に周知・啓発する、
(2)労働者からの苦情を含む相談に応じ、適切な対策を講じるための体制を整備する、
(3)職場におけるパワハラの相談を受けた場合、事実関係の迅速かつ正確な確認と対処を行うこと
が挙げられております。義務違反に対する罰則は現段階では設けられておりません。なお中小企業については2022年3月31日までは努力義務とし、同年4月1日から施行となっております。
コメント
トヨタ自動車は今回のパワハラ自殺と労災認定を受け、再発防止策を策定し公表しました。
それによりますと、匿名での通報や第三者からの相談も受け付ける窓口の設置、パワハラに対する厳格な姿勢を就業規則に反映、異動時に評価情報の引き継ぎ強化、すべての幹部職にパワハラ防止を再教育、休職者の復帰プロセスの見直しなどを盛り込んでおります。
以上のようにパワハラによる自殺は労災の一つとされ、訴訟や会社イメージ低下へのリスクは高いと言えます。厚労省の調査では過去3年以内でパワハラをうけたことがあると回答した労働者は32.5%にのぼるとされ、大企業、中小企業を問わずあらゆる企業でパワハラは起こり得ます。今一度社内でのパワハラ防止体制を見直し、社内で周知・教育を行っていくことが重要と言えるでしょう。
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