東京地裁でタコの滑り台が敗訴、著作物の要件について
2021/05/06 知財・ライセンス, 著作権法, その他

はじめに
公園にあるタコの滑り台は著作物として保護されるのかが争われた訴訟で28日、東京地裁は著作物に当たらないとの判断を示しました。原告は控訴する方針です。今回は著作権法が保護する著作物の要件について見ていきます。
事案の概要
朝日新聞の報道によりますと、原告のデザイン会社(東京都)は1970年代にタコの足がスライダーや階段になっている滑り台を開発し全国で約200台設置しているとされます。被告の遊具制作会社(東京都)がこれに類似する滑り台を許可なく都内の公園に2台設置し、著作権侵害にあたるとして約430万円の損害賠償を求め提訴しておりました。原告側はタコの胴体を空洞にするなど、不思議さ、楽しさを体感してもらうため彫刻家として創作したとしております。これに対し被告側は、一般の人は美的な鑑賞対象ではなく遊具として評価していると反論していたとのことです。
著作権とは
著作権はこれまでも取り上げてきたように、特許や意匠とは異なり登録などは必要なく著作物が創作された時点で自動的に発生します。そして著作権は複製権や上演権、上映権、公衆送信権、口述権、頒布権、翻訳権など様々な権利の束と言われております(著作権法21条~28条)。著作者はこれらの権利を専有し、許可なく他人がこれらの行為を行った場合には著作権者は侵害行為の差止請求や損害賠償請求、名誉回復措置請求などを行うことができます(112条、114条、115条等)。また著作権侵害行為には罰則として10年以下の懲役、1000万円以下の罰金またはこれらの併科が規定されております(119条1項)。ただし例外として私的使用のための複製や検討過程における利用、引用、図書館等における複製などは侵害とはなりません(30条~47条)。
著作物の要件
著作権法2条1項1号によりますと、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」としております。単なる事実や事件、データ、アイデアそのものや感情それ自体は著作物には該当しないと言われております。著作権法では著作物に該当するものとして、小説や論文、脚本などの言語による著作物(10条1項1号)、音楽(同2号)、舞踊や無言劇(同3号)、美術(同4号)、建築(同5号)、図形(同6号)、映画(同7号)、写真(同8号)、プログラム(同9号)などが例示されております。また著作物を翻訳、編曲、脚色したものなども二次的著作物となります(2条1項11号)。
著作物に関する裁判例
著作物の要件については一般的に「表現したもの」に該当するかが主な争点となります。この点について裁判例は、著作権法が保護しているのは具体的に外部に表現した創作的な表現形式であって、その内容であるアイデアや理論等の思想および感情自体は、たとえそれが独創性、新規性のあるものであっても原則として著作物になりえないとしております(大阪地裁昭和54年9月25日)。また建築物に関しても、創作的に表現されたものというためには作成者の何らかの個性が表れている必要があるとしており、アイデアを提供したに過ぎない場合は創作的に表現したものと認めることはできないとしております(東京地裁平成29年4月27日)。
コメント
本件で東京地裁は、滑り台の頭や足、空洞、赤い外観について、タコを連想させ、子どもたちに親しみやすさを感じさせる遊具としての機能とし、遊具の性質の域をでるものではなく、美術品とは認められないとして著作物性を否定しました。著作物の要件としては「表現したもの」ではなく、美術の範囲に属するものの方で該当性を否定された例と言えます。一般的に芸術性、学術性、美術性についてはあまり問題にならず、重要性は低いとされております。今後の控訴審での判断が注目されます。以上のように著作物として保護されるためには思想、感情の表現物であるなど一定の要件が存在します。自社製品の知的財産権の保護要件を把握しておくことが重要と言えるでしょう。
関連コンテンツ
新着情報
- 弁護士
- 片山 優弁護士
- オリンピア法律事務所
- 〒460-0002
愛知県名古屋市中区丸の内一丁目17番19号 キリックス丸の内ビル5階

- 業務効率化
- LAWGUE公式資料ダウンロード
- 弁護士
- 大谷 拓己弁護士
- 弁護士法人 咲くやこの花法律事務所
- 〒550-0011
大阪府大阪市西区阿波座1丁目6−1 JMFビル西本町01 9階

- 業務効率化
- クラウドリーガル公式資料ダウンロード

- 解説動画
奥村友宏 氏(LegalOn Technologies 執行役員、法務開発責任者、弁護士)
登島和弘 氏(新企業法務倶楽部 代表取締役…企業法務歴33年)
潮崎明憲 氏(株式会社パソナ 法務専門キャリアアドバイザー)
- [アーカイブ]”法務キャリア”の明暗を分ける!5年後に向けて必要なスキル・マインド・経験
- 終了
- 視聴時間1時間27分

- ニュース
- コロナ社にカヤバ社、下請業社への金型無償保管で公取委が勧告/23年以降15件目2025.4.28
- 金型保管をめぐる下請法違反の事例が相次いでいます。 暖房機器などの製造・販売を行う「株式...

- セミナー
内田 博基 氏(三菱UFJ信託銀行株式会社 執行役員 法務部長 ニューヨーク州弁護士)
藤原 総一郎 氏(長島・大野・常松法律事務所 マネージング・パートナー)
板谷 隆平(MNTSQ株式会社 代表取締役/ 長島・大野・常松法律事務所 弁護士)
- 【3/19まで配信中】CORE 8 による法務部門の革新:三菱UFJ信託銀行に学ぶ 企業内弁護士の力を最大限に活かす組織作りの秘訣
- 終了
- 2025/03/19
- 23:59~23:59

- 解説動画
大東 泰雄弁護士
- 【無料】優越的地位の濫用・下請法の最新トピック一挙解説 ~コスト上昇下での価格交渉・インボイス制度対応の留意点~
- 終了
- 視聴時間1時間

- まとめ
- 株主総会の手続き まとめ2024.4.18
- どの企業でも毎年事業年度終了後の一定期間内に定時株主総会を招集することが求められております。...