名ばかり取締役に労災認定、労働法と労働者性について
2021/04/28 労務法務, 労働法全般, その他

はじめに
運送会社の元取締役に対する労基署の労災不支給決定を労働保険審査会が取り消していたことがわかりました。取締役の労働者性が認められたのは異例とのことです。今回は労働法の「労働者」性について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、運送会社「千代田運送」(千葉県松戸市)の取締役であった男性が2015年2月に脳出血を発症し、過労が原因として労災申請をしたとされます。男性は埼玉県内の職場で物品の出荷・配送準備に従事し、発症前1ヶ月の時間外労働は127時間に及んでいたとのことです。春日部労基署は労災認定基準にあたる時間外労働100時間超えを認めたものの「労働者」に当たらないとして不支給の決定をしておりました。男性は不支給決定に対し審査請求をしておりましたが認められず、さらに再審査請求をしておりました。
労働関係法令と「労働者」性
労働基準法や労働組合法、労災保険法が適用されるためには「労働者」に該当する必要があります。労働基準法9条によりますと職業の種類を問わず、事業または事業者に使用される者で、賃金を支払われる者を「労働者」としております。この定義は労基法だけでなく、労働安全衛生法や最低賃金法、労災保険法などでも適用されると言われております。なお労働組合法3条では、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者と定義しており、労働基準法の定義よりも労働者該当性の範囲が広いと言われております。
労働者該当性判断基準
労基法上「労働者」は上記のように定義されておりますが、具体的には就労の実態に即して客観的に判断されるとされております。判例によりますと、仕事の以来や業務の指示等に対する諾否の事由の有無、指揮命令の有無、勤務場所・時間についての指定・管理の有無、労務提供の代替可能性の有無、報酬の労働対償性、公租公課の負担等を総合的に考慮して判断すると言われております。仕事を受ける受けないを事由に決定できる場合や指揮監督に服さず、勤務時間的な拘束が無い場合は使用されていると言えず労働者性が低くなります。また逆に労務の長さに対して報酬が決定する場合は雇用関係性が高くなると言えます。また源泉徴収や社会保険料の負担の有無も判断要素となるとされます。
取締役の労働者性
取締役等の会社役員に「労働者」性が認められるのかについて裁判例では、従業員が取締役に就任した場合、従業員たる地位と取締役の地位は併存するとされております(名古屋地裁昭和55年10月8日)。そして取締役といえども一労働者として実際労務に服する場合、各種の危険にさらされ、災害を被ることがあるのは同じであることから取締役であることを理由として労災保険法の保護を否定する理由はないとしております(奈良地裁昭和27年1月30日)。また監査役であっても会社の指揮監督に復し、その対価として報酬を支給されていた者は労働者性が認められるとされております(京都地裁昭和50年8月22日)。
コメント
本件で労働保険審査会は男性が会社全体に係る重要な方針決定する立場になかったこと、取締役会にまったく出席していなかったこと、他の従業員と現業業務に従事していたこと、雇用保険が払われていることなどから労働者に該当すると判断しました。男性は労働者としての地位確認と損害賠償を求め東京地裁に提訴しております。本件ではいわゆる名ばかり取締役の労働者性が問題となった事例と言えます。以前は残業代支払い義務が無い名ばかり管理職が社会問題化しましたが、労働者に該当するかの判断はいずれの場合においても会社の指揮監督下にあるかや、労務の対価として報酬が支払われているかなどを客観的に判断されます。自社の取締役や管理職に、実質的に通常の従業員と変わらない業務に従事している者がいないかを今一度確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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