HISが1億5000万株に引き上げへ、発行可能株式総数について
2020/12/21 商事法務, 会社法, その他

はじめに
旅行大手エイチ・アイ・エス(HIS)は発行可能株式総数を1億5000万株まで引き上げる旨発表しました。今後の機動的な資金調達の確保を目的としているとのことです。今回は株式会社の発行可能株式総数について見ていきます。
事案の概要
HISの発表などによりますと、同社の定款に定められている発行可能株式総数は8855万1450株となっており、すでに発行済株式数もそれに近づいているとされます。同社では昨今持株会社体制への以降を目指して組織再編を行っておりましたが、新型コロナウイルス感染拡大による影響により経営環境が悪化しておりました。そこでさらなる資金調達が必要となった場合に機動的な実施が可能となるよう定款を変更し発行可能株式総数を1億5000万株まで拡大する旨、取締役会で決定したとのことです。2021年1月27日開催予定の定時株主総会の承認を経て、翌28日を効力発生日とする予定となっております。
発行可能株式総数とは
発行可能株式総数とは、株式会社(特例有限会社含む)が発行できる株式の枠を言います。その枠の範囲内で株式を発行し資金調達を行うことができます。発行可能株式総数は定款で定めなければならないわけではありませんが通常は定款で定めるのが一般的です(会社法27条参照)。しかし登記事項ではあるため必ず登記することとなります(911条3項6号)。そのため発行可能株式総数を定款で定めている一般的な会社では、発行可能株式総数を変更する際は株主総会の特別決議による定款変更の承認決議を経て登記することとなります。
4倍ルール
公開会社では発行可能株式総数に関して、いわゆる「4倍ルール」というものがあります。これは発行可能株式総数が発行済株式数の4倍を超えてはならないというものです。公開会社では発行可能株式総数の枠内であれば取締役会の決議によって新たに募集株式を発行することが可能であり、既存の株主の持株比率を低下させることができてしまうためそれらの株主を保護する必要があります。そこで発行済株式数の4倍までという制限が設けられております。なお非公開会社では新たに募集株式を発行する場合、株式割当、第三者割当いずれの場合でも株主総会が必ず関与するためこのような制限も必要ないということです。
4倍ルールが適用される場面
4倍ルールが適用されるのは、①公開会社の設立時(37条3項)、②定款変更による発行可能株式総数の増加の場合(113条3項1号)、③非公開会社が定款変更して公開会社となる場合(同2号)、④株式併合(180条3項)、⑤新設合併、新設分割、株式移転による公開会社の設立の場合(814条1項括弧書、37条3項)となっております。従来は①②のみでしたが平成26年改正によりそれ以外も追加されました。株式併合などが抜け道として利用可能であったということです。なお会社が自己株式を消却し、結果的に発行済株式数が発行可能株式総数の4分の1を割ってしまっても4倍ルールは適用されません。
コメント
本件でHISは発行可能株式総数を約8855万株から約2倍近くとなる1億5000万株まで拡大する予定となっております。公開会社であるHISにも4倍ルールが適用されるためその範囲内での拡大です。定時総会での承認決議が得られれば1月28日に効力が発生し、その日から2週間以内に登記がなされる見通しとなります。このように公開会社では発行可能株式数の範囲内で取締役会決議によって機動的に資金調達が可能です。一方でその枠を大きく取りすぎると上でも述べたように既存の株主の保護が薄くなると言えます。経営陣の専横を招くリスクが高まるということです。自社の経営規模や経営環境、資金調達の必要性などを考慮して適切な枠を模索していくのが重要と言えるでしょう。
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