上司による暴露で企業側が謝罪、アウティング問題について
2020/12/02 コンプライアンス, 民法・商法, 刑事法, その他

はじめに
豊島区の会社に勤務していた20代男性が上司により勝手にアウティングされ精神的苦痛を受けていたとして、会社側が男性に謝罪し解決金を支払う旨の合意をしていたことがわかりました。アウティング被害での会社との和解は異例とのことです。今回は昨今問題視されることが多いアウティングについて見ていきます。
事案の概要
日経新聞によりますと、男性は2019年に同社に入社する際、自身の性的指向を会社側に明かし、同僚には自分のタイミングで伝えたい旨説明していたとされます。しかし同年夏に同僚のパート女性から避けられるようになり、その後上司が男性の性的指向をアウティングしていたことが判明したとのことです。男性はアウティングを禁止する豊島区の条例に基づく申し立てを行い、同区によるあっせんを受けていたとされます。
アウティングとは
本人の了解を得ずに、ゲイやレズビアン、バイセクシャルなどの性的指向や性同一性に関する秘密を暴露することをアウティングと言います。LGBTの人権が叫ばれる昨今、企業内や学校内等でのアウティングによる紛争が増加しており、それによる精神疾患や最悪の場合それを苦にした自殺といった事例も見られます。それを受け各自治体ではアウティングを禁止する条例の制定が進められており、今年6月1日に施行されたパワハラ防止法でも、各企業に義務付けるパワハラ防止策にはアウティングも含まれることとなります。
アウティングに関する裁判例
アウティングに関する事例としは、法科大学院の男子学生が同級の男子学生がゲイである事実をLINEで暴露し、暴露された学生が自殺したというものがあります。暴露した学生はされた側の学生から好意を寄せている旨のメッセージを受けたものの、自分にその気はなく拒否したもののその後精神的に不安定となりLINEで同級生10人に暴露してしまったというものです。自殺した学生の遺族は暴露した同級生と大学を相手取り損害賠償を求め提訴しておりました。一審東京地裁は暴露された学生の転落自殺は大学側に予見することはできず、大学側に安全配慮義務違反は無いとして棄却しました。二審東京高裁も遺族側の請求を棄却したものの、アウティングについては人格権ないしプライバシー権などを著しく侵害する許されない行為であるとしてアウティングの不法行為性や違法性を認めました。
アウティングに伴う法的問題
上記のようにアウティングが民事上の不法行為に該当することは間違いないと言えます(民法709条)。それ以外にも条例違反や場合によっては刑法上の名誉毀損や侮辱罪に該当する可能性もあります。名誉毀損の成立要件は、公然と事実を摘示し人の名誉を毀損することとされております(刑法230条)。公然ととは不特定多数の人が知り得る状態を言います。事実の摘示とは「○○はゲイである」「○○は元は男性である」といったもので真偽は問いません。そして名誉の毀損とは人の社会的評価を低下させる状態を言います。社内で気軽に「あいつ実はゲイなんだ」といった暴露も該当し得ると言えます。
コメント
本件で男性社員は入社時に自身の性的指向については自身のタイミングで同僚に伝えたいと会社側に説明していたにもかかわらず、男性の上司は同僚社員に暴露したことを明かしたとされます。男性は職場からアウティングをなくすきっかけになればと豊島区条例に基づいて救済を申し立てました。これを受け会社側はアウティングを認めて謝罪し和解に至りました。以上のように近年ではアウティングを防止する機運が高まっており、法規制の動きも進んでおります。現状では罰則のある条例等はまだ存在しておりませんが、上で触れたようにアウティング自体が名誉毀損などの刑法犯に該当し得る行為と言えます。社員が秘密としている性的指向を社内で暴露すると、場合によっては刑事事件に発展することも予想されます。社内でアウティングの防止を啓発していくことが重要と言えるでしょう。
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