東京高裁がモバゲー規約を不明確と判断、規約の有効性について
2020/11/09   消費者取引関連法務, 民法・商法, 消費者契約法, エンターテイメント

はじめに

IT大手DeNAが運営する「モバゲー」の利用規約の一部が不当であるとして、埼玉県の適格消費者団体が規約に基づく契約の差し止めを求めていた訴訟で5日、東京高裁は規約の不明確性を認め控訴を棄却しました。DeNA側の裁量が大きいとのことです。今回は利用規約に関する規制について見ていきます。

事案の概要

 報道や適格消費者団体の発表によりますと、モバゲーの規約には「携帯電話及びパスワードの管理不十分、使用上の過誤、第三者の使用などによる損害の責任はモバゲー会員が負うものとし、当社は一切の責任を負いません」「当社の措置によりモバゲー会員に損害が生じても、当社は一切損害を賠償しません」「受領した料金は返還しません」といった条項があり、また利用停止措置に関するものとして、「他のモバゲー会員に不当に迷惑をかけたと当社が判断した場合」「その他、モバゲー会員として不適切であると当社が判断した場合」などとされておりました。これらの規定が消費者契約法に抵触するものとして適格消費者団体が同社にこれによる契約の差し止めを求めていたものです。

事業者の免責条項

 消費者契約法8条1項によりますと、事業者の責任の全部を免除、または責任の有無を事業者側に決定させる権限を付与する条項は無効とされます。また事業者の故意または重過失による責任についても一部免除や責任の限度の決定を事業者に付与する条項も無効とされております。これは事業者側の契約に基づく債務不履行だけでなく不法行為に基づく責任についても同様です。たとえば「いかなる理由があっても当社は一切の損害賠償責任は負いません」「当社に故意または重過失がある場合でも賠償責任は負いません」といった条項や「当社が負う賠償責任は何円を限度とします」といったものが挙げられます。

その他の消費者契約法上の規制

 消費者契約法10条では信義則に反して消費者の利益を一方的に害する条項も無効とされております。消費者からの解除権を放棄させるものや、事業者側からの解除の要件を緩和するもの、民法の原則に反して消費者側に証明責任を負わせるもの、消費者の権利行使期間を通常よりも短縮するといったものが挙げられます。また上記とは逆に消費者が事業者に対して負う賠償責任を通常よりも加重する条項も無効とされております(9条)。たとえば事業者に通常生ずべき平均的な損害額を超える違約金や年14.6%を超える遅延損害金の定めは超える部分については無効とされております。

民法による規制

 民法の平成29年改正では定型約款に関する規定が盛り込まれました。不特定多数の者を相手とする定形取引では、定型約款を契約内容とする合意があった場合、または定型約款を契約内容とする表示を相手方に示した場合にはその約款のそれぞれの条項についても合意があったものとみなされます(548条の2)。しかしやはりこちらでも一定の制限が設けられており、相手方の権利を制限し、義務を加重するもので、社会通念と信義則に反して相手方の利益を一方的に害する条項は合意がなかったものとみなされます(同2項)。

コメント

 本件で一審さいたま地裁は「モバゲー会員として不適切であると当社が判断した場合」という条項について、著しく明確性を欠き、複数の解釈の可能性が認められ「判断」にあたって極めて広い裁量があるとして不当としました。DeNA側は一審判決後に同条項を「当社が合理的に判断した場合」と改定しましたが東京高裁は不明確であることに変わりはないとし一審判決を支持しました。東京高裁は事業者は消費者にわかりやすいよう配慮する努力義務を負うと指摘しました。近年インターネットやスマホアプリを利用したゲーム等が急激に増加しております。その契約にあたっては本件と同様の免責条項や運営会社の判断によるアカウント停止措置条項が盛り込まれた約款が広く利用されております。しかし今回の訴訟で消費者に一方的に不利に解釈しうる条項は違法となる可能性が出てきました。本判決を踏まえ、今一度使用している約款を見直すことが重要と言えるでしょう。

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