ワタミに労基署が是正勧告、書類の書き換えについて
2020/10/14 労務法務, 労働法全般, 外食

はじめに
社員への未払い残業代があったとして労基署から是正勧告を受けた居酒屋大手「ワタミ」で出退勤記録を社員の上司が書き換えていたことがわかりました。社員が打ち込んだ土曜日の出勤記録を翌週に付け替えていたとのことです。今回は労働関係書類等の書き換えについて見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、高齢者に弁当などを届ける「ワタミの宅食」の群馬県内の営業所に務める40代の女性従業員は今年7月までの1ヶ月間で175時間を超える残業していたとのことです。これにより先月15日、高崎労基署は同社に対し是正勧告を出しましたが、同従業員が入力していた土曜日の出退勤記録を上司のエリアマネージャーが書き換え、その労働時間を翌週に付け替えていたことが発覚したとされます。従業員側は土日の出勤実態を隠蔽するために行っていた可能性があると主張しております。同社は未払い分の支払いと謝罪を発表しました。
出退勤記録等の書き換え
労基署による臨検を受けた際、監督官から過去何年分の賃金台帳や勤怠記録、ライムカード等の提出を求められることがあります。これらの書類を改ざんしたり、虚偽の内容を記載した場合どうなるのでしょうか。労働基準法120条4号によりますと、「臨検を拒み、妨げ、若しくは忌避し、その尋問に対して陳述をせず、若しくは虚偽の陳述をし、帳簿書類の提出をせず、又は虚偽の記載をした帳簿書類を提出した」場合、30万円以下の罰金となっております。ここに言う帳簿書類とは労働者名簿、賃金台帳、そして賃金その他労働関係に関する重要な書類を言います。出勤簿等もここに含まれます。これらを整備していなかった場合も同様に30万円以下の罰則が設けられております。
その他虚偽書類の問題点
上記の労働基準法による罰則や労基署による是正勧告等以外にも、改ざんした書類や実態と異なる書類を作成した場合、様々なリスクが生じることとなります。まず虚偽書類の作成や提出による労基法違反によって罰則を受けた場合、5年間は派遣事業を行うことができないとされております。またこのような労働関係法令違反があった場合は助成金の受給も不可となります。そしてさらに助成金等の受給を目的に虚偽の書類を作成して申請した場合、文書偽造や詐欺罪に問われる可能性もあると言われております(刑法246条、159条等)。
従業員側が行った場合
労働関係書類の改ざんや虚偽記載を従業員側が行ってしまう場合もあります。典型的にはタイムカードで実際とは違う勤怠時刻を打刻したり、書き換えたりする場合が挙げられます。実際に行った残業時間よりも長く残業したようにして残業代を多く受け取るといった事例が実際に生じております。このような場合、会社側を欺いて金銭を交付させる詐欺罪に該当する可能性がでてきます。当人の過失による打刻ミスであれば注意で済みますが、これらの行為を意図的に行っていた場合には懲戒解雇も可能な場合があると言え、実際に懲戒解雇が認められた裁判例も存在します(最判昭和42年3月2日等)。
コメント
本件でワタミの宅食のエリアマネージャーは女性従業員が自ら入力した出勤記録を削除して別の日に付け替えていたとされております。これが事実であった場合、上記のとおり労働関係法令の書類の備え置き違反や監督官への虚偽書類の提出等に該当してくる可能性があると言えます。従業員側によりますと、同社は過去にも過労死問題が生じており、労務管理上の問題を隠蔽するためではないかとされております。近年労基署は過重労働などを最も重点的に調査しており、タイムカードや勤怠記録を最重要視しているとも言われております。会社側だけでなく従業員にとっても労働関係書類の改ざんは重大な事態を招くリスクを生じさせます。どのような書類の作成が義務付けられているのか、それに虚偽を記載した場合どのようなペナルティが設けられているのかを今一度確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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