横浜地裁で「ナイス」前会長らの初公判、粉飾決算について
2020/09/11   金融法務, コンプライアンス, 金融商品取引法, 住宅・不動産

はじめに

東証一部上場の建築資材・不動産販売「ナイス」(横浜市)の粉飾決算事件で金商法違反に問われている前会長平田恒一郎(72)被告と日暮清(68)の初公判が4日、横浜地裁で開かれました。両被告は無罪を主張しているとのことです。今回は粉飾決算を見直していきます。

事件の概要

 報道などによりますと、ナイスの前会長である平田被告らは2015年3月期連結決算で有価証券報告書に架空の売上を計上し虚偽の連結損益計算書を作成して同年6月、関東財務局に提出したとされます。両被告は赤字の決算を黒字化するため、ペーパーカンパニーに物件を売却し経常利益を4億9600万円としていたとされ、東京地検は両者を有価証券報告書虚偽記載の容疑で昨年7月に逮捕しておりました。初公判で検察側は取引の経緯から売買の意思の無い架空取引であったと主張しております。

粉飾決算とは

 粉飾決算とは、会社が不正な会計処理を行って内容虚偽の計算書類等を作成し、収支を偽装して行われる決算を言うとされております。貸借対照表の資産を過大計上したり、損益計算書の経常損益を改ざんして経営状態を実際よりも良く見せるといったことですが、簡単に言えば架空売上の計上とあるべき経費を計上しないことが典型と言えます。その目的は、株主等からの追求逃れや銀行からの融資を引き出すこと、また官公庁からの公共事業の入札資格の確保、株価操縦など様々です。通常は代表取締役などの役員や経営者が行いますが、上からのプレッシャーや圧力に負けた一部の部署や支店が行う例もあるとされます。

粉飾決算の法的責任

 粉飾決算は一般にも知られているようにその責任は非常に重く、刑事民事ともに大きなペナルティが課されることとなります。まず刑事責任としては会社法では10年以下の懲役、1000万円以下の罰金またはこれらの併科となっております(960条)。民事再生法や会社更生法、破産法などにも同様の規定が置かれております。そして金商法では10年以下の懲役、1000万円以下の罰金とこれらの併科に加え、両罰規定として法人としての会社に対しても7億円以下の罰金となっております(197条、207条)。また金商法では刑事罰だけでなく課徴金も定められており、市場価格総額の10万分の6か600万円の高い方となります(172条の4)。民事上も民法の不法行為(709条)となるだけでなく、金商法が適用される場合には証明責任が転換されている場合があります。

金商法上の虚偽記載の要件

 金商法21条の2によりますと、有価証券報告書のうち「重要な事項」について虚偽の記載がある場合に虚偽記載に該当することとなるとしております。そしてこのような有価証券報告書を「提出した者」に虚偽記載罪が成立するとされます(197条1項1号)。この「重要な事項」とは、一般に投資家の投資判断に重要な影響を与えるものが該当すると言われております。売上高や経常利益、純利益などが挙げられます。そして「提出した者」とは虚偽記載のある有価証券報告書の作成に関与した者を言い、起案者だけでなく承認や署名した役員等も含まれることとなります。

コメント

 本件でナイスの前会長ら両被告の被疑事実はペーパーカンパニーに不動産を売却し売上を架空計上したこととされ、検察側は売買意思の無い架空取引としています。それに対し被告人側は実際に所有権移転登記がなされ取引の実態はあったと反論しております。今後売上が架空であったかが主な争点となると考えられます。以上のように粉飾決算は非常に重い責任が生じます。刑事責任を免れても課徴金納付命令が出されることも有りえます。東京商工リサーチの調べでは昨年の粉飾決算による倒産件数は前年比2倍とされ新型コロナウイルスによる不況もあり今後増加することが予想できます。粉飾決算は会計の専門家が数年分の計算書類を見れば見抜くことができると言われております。今一度社内で周知しておくことが重要と言えるでしょう。

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