アマゾンレビューで有罪、やらせ投稿対策について
2020/09/10 危機管理, 民法・商法, 小売
はじめに
大手通販サイト「アマゾン」の賞品レビュー欄に悪い内容を書かせて競合する他社の信用を毀損したとして、健康食品通販サイトの男性役員に罰金20万円の略式命令が出ていたことがわかりました。仕事仲介サイトで依頼していたとのことです。今回はやらせ投稿対策について見ていきます。
事件の概要
朝日新聞によりますと、2018年1月、福岡市内で健康食品や健康器具の通販会社を経営する男性役員(25)は仕事仲介サイトで商品レビューの仕事を募集し、それに応募した福岡県内の40代女性に別の健康食品販売会社がアマゾンで出品しているサプリメントに低評価のレビューを書かせたとされます。女性はその商品を使用したことがないにもかかわらず「一粒が大きくて飲みにくかった」などとし、5段階評価で最低の星一つとして投稿していたとのことです。これを含め同じような低評価レビューが1週間で9件ほど続き、不審に思った販売会社社長が投稿者を調べたとされます。
信用毀損罪とは
本件で問題となった信用毀損罪とは、虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて人の信用を毀損することを言います(刑法233条)。ここに言う「信用」とは人の支払い能力や支払い意思に対する社会的信頼だけでなく、商品の品質などに対する社会的信頼も含むとされております(最判平成15年3月11日)。これに対し名誉毀損罪は信用ではなく人の社会的評価を低下させる行為が該当することとなります(230条)。信用毀損罪は現実に人の信用を低下させなくても、その危険を生じさせただけで成立するとされております。法定刑は3年以下の懲役または50万円以下の罰金となっております。以下やらせ投稿対策を具体的に見ていきます。
通販サイトへの通報・削除依頼
アマゾンなどの通販サイトでやらせ投稿や不当なレビューが書かれた場合、まず考えられるのはサイト側に削除依頼や違反の報告を行うことです。アマゾンでは他人に不快感を与えるものや転用、プライバシー侵害、営利目的の投稿は不適切レビューとして削除されるとのことです。またアマゾンのレビュー欄には投稿の後ろに「違反の報告」ボタンが設置されており、そこから通報することが可能です。また通販サイトが任意に削除要請に応じない場合は裁判所に削除を求める訴訟および仮処分を求めることも可能です。権利侵害が認められれば裁判所から削除命令が出ることとなります。
発信者情報開示請求
次に考えられるのがプロバイダ責任制限法による発信者情報開示請求です。プロバイダ責任制限法4条1項によりますと、誰もが閲覧可能なインターネット上のサイトへの投稿で自己の権利が侵害されたことが明らかであり、正当な理由が認められる場合には発信者情報の開示をプロバイダに求めることができます。正当な理由とは損害賠償請求や刑事告発をするために必要といった場合に認められます。開示される発信者情報は、氏名、住所、メールアドレス、IPアドレス、SIMカード識別番号やタイムスタンプなどです。これにより発信者本人に対して法的な措置を取ることができるようになります。
コメント
本件でやらせ投稿の被害にあった健康食品販売会社の社長は投稿者名を検索するなどして自力で仲介サイトや依頼者、投稿者を特定し警察に被害届をだしたとされます。やらせレビューや不適切書き込みで実際に投稿者を特定し刑事罰が出されることは異例と言われております。上記のように通販サイトへの通報や発信者情報開示請求により不適切投稿に対処することは可能ですが、実際には簡単ではなく被害者側が様々な立証を必要とし時間も手間もかかります。本件のように自力で特定し実際に刑事罰が出されたことで今後同様の不適切レビューへの抑止になることが期待されます。自社の製品に不当なレビュー等がなされた場合にはどのような対処をすることができるのかを予め把握しておくことが重要と言えるでしょう。
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