トラスコ中山が廃止を発表、株主優待制度について
2020/08/26   商事法務, 会社法, その他

はじめに

機械・器具類の物流を手掛けるトラスコ中山は21日、株主優待制度を廃止する旨発表しました。優待品にかかる費用が2億3000万円に膨らんでいたとのことです。今回は株主優待制度の会社法上の問題点等について見直していきます。

事案の概要

 報道などによりますと、トラスコ中山では株主優待制度として、毎年12月末日を基準日とし、100株以上保有している株主に5000ポイント、1000株以上保有の株主に1万ポイントの優待ポイントを株主に配布しておりました。この制度は平成6年度から開始しており、優待ポイントでお米や日用品などパンフレット掲載の商品から選んで交換できるとされます。これにより同社では株主の数が約5万人に増加しましたが、運用コストは年々増加し、平成29年には約1億1千万円、昨年は約1億8千万円、そして今年度は約2億3千万円に膨らむことが予想されるとのことです。令和元年12月末日付の株主を最後とし株主優待制度を廃止するとされます。

株主優待制度とは

 株主優待制度とは、一定数以上の株式を保有する株主に対し、剰余金以外の品物やサービスなどを提供する制度を言います。提供されるものは自社製品や商品券、割引券、サービス券、食品や娯楽、レジャー施設利用権など多岐にわたり、クオカードなどもよく利用されます。その目的は主に投資家を誘引し、投資家層の拡大、安定株主の確保や自社および製品等のPRなどが挙げられます。実際投資先を株主優待制度で決めている個人株主も多いと言われており、旧商法時代から多くの株式会社で採用されている制度です。しかし一方で会社法上いくつかの問題点も存在してきました。以下具体的に見ていきます。

株主優待制度と会社法

(1)株主平等原則

 株主優待制度の問題点としてまず挙げられるのが株主平等原則(109条1項)との関係です。株式会社は株主をその保有する株式の内容および持ち株数に応じて平等に扱わなければならないとされます。株主優待制度は厳密に持ち株数に比例した扱いがなされていないのが一般的です。そのためこのような株主優待制度は株主平等原則に違反するのではないかが問題となります。この点については社会通念に照らして相当であり、優待の内容が合理的な範囲内であって株主間の実質的平等を損なわないものであれば問題ないとするのが通説とされます。

(2)配当規制

 株主優待制度は株主からすれば剰余金の現物配当に近い性質を持ちます。剰余金配当を行うには原則として株主総会決議を要し(454条1項)、またその額も分配可能額の範囲内でなければなりません(461条1項8号)。株主優待制度がこれらの規制に違反するとされた例はありませんが、たとえば分配可能額が無く配当ができないので配当に代えて株主優待の形で特定の株主に品物などを提供した場合は問題となる可能性があると言えます。

(3)利益供与

 株主優待制度は場合によっては利益供与の問題に触れることがあります。会社法120条1項では、会社が株主の権利行使に関し、財産上の利益を供与することを禁止しております。これはいわゆる総会屋対策として規定されたものですが、その適用範囲は広く株主の権利行使に影響を与えるあらゆる財産供与が該当することになります。実際にあった事例で株主総会での委任状勧誘に際して500円分のクオカードを提供した例があります。この事例で東京地裁はクオカードの提供が利益供与に該当し違法であるとして決議を取り消しました(東京地裁平成19年12月6日)。議決権行使に対する謝礼となっていたからとされます。

コメント

 本件でトラスコ中山の採用していた優待制度では100株で5000ポイント、1000株で1万ポイントと厳密な形で持ち株数に比例したものではありませんが、社会通念上相当な範囲と言え制度の内容に問題は無いと考えられます。しかし同社ではその運用コストが大きくなりすぎ、制度自体を廃止せざるを得なくなったというものです。以上のように株主優待制度は株主層の裾野を広げ、長期的な安定株主の確保が望めます。現在では上場企業の4割近くが優待制度を採用していると言われております。しかし上記のように会社法上も注意すべき点がいくつかあり、また長期的な視野で運用コストも計算する必要があると言えます。自社の株主層やその数などから無理のない範囲で優待制度を活用することが重要と言えるでしょう。

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