産地偽装で有罪判決、不正競争防止法の規制について
2020/07/22 広告法務, 不正競争防止法, その他
はじめに
異なる産地のものを混ぜた米を「福島県産こしひかり」と表示して販売していたとして不正競争防止法違反で起訴されていた米卸会社社長の判決公判で神戸地裁は、懲役1年6月、執行猶予3年、罰金100万円の有罪判決を言い渡していました。同社は現在倒産しているとのことです。今回は不正競争防止法の偽装表示規制について見ていきます。
事件の概要
報道などによりますと、兵庫県明石市内で米卸会社を経営していた男(58)とその妻で経理部長の女(57)は2019年1月から「福島県産こしひかり」と単一原料米の表示しながら福島県産コシヒカリに滋賀県産コシヒカリを混ぜるなどした複合米を販売していたとされます。取引先からの刑事告発を受けて捜査していた兵庫県警の調べでは、2人は2014年から2019年3月にかけて同様の手口で偽装米513トンを大手薬局チェーンにおろし、約1億5千万円を売り上げていたとのことです。2人は不正競争防止法違反の容疑で逮捕・起訴されておりました。
不正競争防止法による規制
不正競争防止法2条1項20号によりますと、商品、役務、その広告、取引に用いる書類等に「原産地」「品質」「内容」「製造方法」「用途」「数量」「質」「内容」について誤認させるような表示をし、またはその表示をした商品を販売等する行為は不正競争行為の一種である誤認惹起行為として禁止されております。誤認惹起行為によって営業上の利益が侵害された者は損害賠償請求や差止請求をすることができます(3条、4条)。また刑事罰として5年以下の懲役、500万円以下の罰金またはこれらの併科が規定されております(21条2項)。法人に対しても3億円以下の罰金が課されることがあります(22条1項)。
誤認惹起行為の具体例
これまで実際に裁判例で誤認惹起行為とされた事例としましては、次のようなものが挙げられます。原料が京都産ではない茶を「京の柿茶」として販売(東京地裁平成6年11月30日)。本みりんではない調味料に「本みりんタイプ調味料」と表示し「本みりん」部分を強調していた(京都地裁平成2年4月25日)。ベルギー産ではないダイヤモンドを「原石ベルギー直輸入」と表示し加工のみはベルギーで行っていたものを販売(東京高裁昭和53年5月23日)。「牛100%」と表示しながら鶏や豚を混ぜたミンチを販売(札幌地裁平成20年3月19日)。クリームや脱脂粉乳を混ぜた「加工乳」を「牛乳」として販売(仙台地裁平成9年3月27日)。そのような効果はないのに「すすの量90%減少、消化時の匂いも50%減少」と表示してろうそくを販売(大阪高裁平成17年4月28日)。
損害額の推定規定
不正競争防止法5条2項では、不正競争行為によって営業上の利益を侵害された者が損害賠償請求する場合に、相手方が不正競争行為によって利益を受けている場合はその利益の額が損害額と推定するとされております。通常損害賠償請求訴訟では損害とその額は原告側が立証することとなります。しかし具体的な額を立証することは容易ではありません。そこでこのような推定規定が置かれております。実際にこの規定により約2億4千万円の賠償額が認められた事例も存在しております(氷見うどん事件、名古屋高裁平成19年10月24日)。
コメント
本件で米卸会社を経営していた男は、滋賀県産のコシヒカリを混ぜた複合米を「福島県産こしひかり」と表示して販売していたとされます。産地偽装は不正競争防止法の誤認惹起行為の典型例と言えます。以上のように産地や品質、製造法などについて取引相手等が誤認するような表示をすることは違法となります。また実際よりも著しく優良である表示は別途景表法にも抵触する可能性があります。景表法は措置命令や課徴金といった行政処分による規制をメインとして規制しておりますが、不正競争防止法は民事や刑事罰によって取引の相手方を保護しております。不当や表示などによって営業上の利益を侵害された場合は、どのような救済手段が用意されているかを把握して検討していくことが重要と言えるでしょう。
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