東京地裁がアマゾンジャパンに無効判断、懲戒処分の手続について
2020/07/20 労務法務, 労働法全般, その他

はじめに
ネット通販大手「アマゾンジャパン」(目黒区)で働く40代男性が理由を明らかにせず降格にされたのは不当であるとして差額給与分や慰謝料等を求めていた労働審判で、東京地裁は懲戒処分を無効としていたことがわかりました。同社による異議申立により今後民事訴訟に移行するとのことです。懲戒処分の要件等については先日も取り上げましたが、今回は懲戒処分の手続きについて見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、申立人の男性は2013年5月にアマゾンジャパンに入社し、2018年から出店者にアマゾンプライムの利用を提案する部署で働いていたとされます。男性は2019年2月に上司から成績が悪いと言われ、同社の業績改善プログラムとされる「コーチングプラン」を受けることとなりました。男性側の主張では課題はいずれも達成したものの、上司は認めないとしていたとのことです。その後男性は10%の減給と降格の懲戒処分を言い渡されました。具体的な処分理由は明示されていなかったとされます。
懲戒処分の要件
会社が労働者に対して行う懲戒処分には、戒告、減給、降格、譴責、出勤停止、解雇等があります。これらの懲戒処分を行うためには予め就業規則に定めておく必要があります。また労働契約法15条では、懲戒は「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして」無効であるとしています。懲戒処分には合理的な理由が必要であり、懲戒事由に比して不相当に重くてもいけません。また懲戒処分は労働者にとって重大な負担を課すものであることから、その手続きも適切に履行される必要があります。
懲戒処分の手続き
それでは具体的にどのような手続きが必要なのでしょうか。まず懲戒処分を行う上で最も重要な手続きは事情聴取です。聴聞手続きとも呼ばれます。裁判所もこの手続きが適切に行われたかをかなり重要視している傾向があります。当事者の言い分を主張する弁明の機会を与えた上で、正確に事実確認を行っていく必要があります。これは該当労働者に反省を促す場ではなく、あくまで懲戒事由の有無を確認するための事実確認の場と言えます。聴取では労働者の発言は任意であり、無理に話させることは良くありません。また時間も長過ぎないよう注意し、希望する場合には適時休憩を挟むべきと言えます。複数回に分けて行うことも可能と言われております。
懲戒解雇の場合の注意点
懲戒処分が解雇にまで至る場合にはより慎重に手続きを進めていくことが必要です。懲戒解雇の場合はその重大性から懲戒委員会の設置を就業規則に定めている会社も多いと言えます。その場合は懲戒委員会での合議が必要となり、それを欠く場合には不当解雇となる可能性が高いと言えます。また労基署への解雇予告除外認定の申請や、該当労働者への離職票を発行する必要もあります。また該当労働者が請求した場合、解雇理由証明書を遅滞なく交付する必要があります(労働基準法22条2項)。
コメント
本件で東京地裁は会社側が秘密情報であるとして懲戒処分が有効であることを具体的かつ十分に立証できていないとし懲戒処分を無効と判断しました。懲戒処分にはその理由と事情聴取や弁明の機会などの手続きの履践が必要ですが、東京地裁はそれらが認められないと判断したものと考えられます。以上のように懲戒処分は合理的な理由と社会的相当性、そして手続きが重要です。また訴訟においてそれらを主張立証する責任は会社側にあると言われております。訴訟で懲戒理由などを証明できない場合は会社側が敗訴することとなります。社長等が独断で懲戒処分を行っていないか、今一度確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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