会社員らが業者を提訴、給与ファクタリングについて
2020/05/19 金融法務, 債権回収・与信管理, 出資法・貸金業法

はじめに
埼玉県内に住む50代の男性ら9人が「給与ファクタリング」業者を相手取り、約440万円の損害賠償を求め提訴していたことがわかりました。給与ファクタリング業者への訴訟は全国初とのことです。今回は給与ファクタリング業について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、原告の男性ら9人は2018年12月~2020年3月に給与ファクタリング業者「七福神」(新宿区)に給与債権を売却し、給与支払日に受け取った給与を支払う取引を行っていたとされます。原告側の主張では、実質給与債権の買取と称して月数万円を貸付け、法定金利の上限109.5%を超える最大1409%の金利を支払わせていたとしています。同社利用者の中には4万5000円を受け取り、翌月に6万円を支払っていた例もあるとのことです。同社は債権の買取行為であり貸金業ではないとしています。
ファクタリング業とは
一般にファクタリング業とは、企業の売掛代金債権を買取り、その債権の管理・回収を行う一種の金融業を言います。ファクタリング業者は債権を額面額よりも安く買取り、弁済期に債務者から満額支払いを受け取ることでその差額を利益としています。手形の裏書譲渡に似ていますが、ファクタリングは債権自体を買い取ることから貸倒れリスクもそのままファクタリング業者が引き受けることとなると言われております。このようにファクタリング業は法的には単なる債権の売買であることから貸金業には該当せず、監督官庁の免許や登録も不要とされております。
給与ファクタリングとは
近年増加している給与ファクタリングとは、利用者の給与債権を給料日前に額面額よりも安く買取り、給料日に給与を受け取った利用者からその全額を受け取るというものです。給与の前払いなどと宣伝され、例えば10万円の給与債権を7万円で買取り、給料日に10万円を業者が受け取るというものです。労働基準法24条1項では給与は労働者に直接支払うことが義務付けられており、業者が給与債権を買い取っても利用者が働いている会社に直接支払いを求めることはできません。そのため一旦は利用者に支払われ、それを業者にそのまま引き渡すという形をとります。
給与ファクタリングと貸金業
給与ファクタリングは昨今、実質においては貸金業と変わらず、出資法や利息制限法、貸金業法を潜脱する脱法行為に当たるのではないかとの指摘がされてきました。出資法の上限金利は金融業者で年20%、非金融業者で年109.5%となっております(5条1項、2項)。債権買取額と額面額の差額を利息と見れば年1000%を超えるものも多いとされます。給与ファクタリング業者が利用者を相手取り支払いを求めた訴訟で東京地裁は、給与ファクタリングの仕組みは経済的には貸付による金銭の交付と返還約束の機能を有するとし、手形割引や売渡担保等に類するものであり貸金業法や出資法にいう「貸付け」に該当するとしました。また上限利率を大幅に超え、刑事罰に該当するものであることから本件契約は無効であり、不法原因給付に該当し、返還義務も無いとしました(東京地裁令和2年3月24日)。
コメント
以上のように東京地裁は今年の3月24日判決で給与ファクタリング行為は貸金業に該当するものであり、上限金利を超える契約は無効と判断しました。また金融庁も給与ファクタリング行為は貸金業に該当するとの見解を発表しております。本件でも原告側の主張が事実であれば金利に引き直すと1000%を超えており、違法な貸付け行為と判断される可能性は高いと考えられます。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で収入が減っており、生活苦からやむなく給与ファクタリングを利用する労働者も多いと考えられます。しかしその実質は法外な金利を取る違法業者である場合が多いと考えられます。以上の点を社内で周知し、従業員に注意を促しておくことが重要と言えるでしょう。
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