インサイダー取引「バスケット条項」についてのまとめ
2017/04/03 金融法務, 金融商品取引法, 金融・証券・保険
1 はじめに
会社関係者が会社の内部情報を利用して株式の売買をすることがあります。これはいわゆるインサイダー取引というものです。そして、インサイダー取引があると企業の信頼を損なうおそれがあります。そこで、今回はインサイダー取引(特にバスケット条項)について情報をまとめました。
2 インサイダー取引とは
「インサイダー取引」とは、会社の重要な情報を知り得る者が、そのような情報を知って、それが公表される前にその会社の株式等の売買を行うことを指します。そして、インサイダー取引が行われると、そういった重要情報を知らされていない一般投資家は、不利な立場となります。また、不測の損害を被るおそれもあり、証券市場に対する投資者の信頼を失うことにもなりかねません。
インサイダー取引規制とは何ですか
インサイダー取引(日本取引所グループ)
インターネット取引ルール -全般
3 インサイダー取引規制(金融商品取引法166条)の要件
インサイダー取引規制の要件は①会社関係者(元会社関係者を含む。)が②上場会社等の業務等に関する重要事実を③その者の職務等に関し知りながら④当該重要事実が公表される前に⑤当該上場会社等の株券等の売買等を行うことです。なお、会社関係者から重要事実の伝達を受けた者(あるいは当該伝達を受けた者が所属する法人の役員等で、その者の職務に関し重要事実を知った者)が当該重要事実が公表される前に売買等を行う場合を含みます。
インサイダー取引規制の概要 – 金融庁(pdf)
4 バスケット条項
3で前述しましたインサイダー取引規制の要件の②「業務等に関する重要事実」について金融商品取引法では合併や業務提携、解散など会社が自ら決定した「決定事実」と取引先との取引停止、主要株主の異動などその会社の意思によらないで発生した「発生事実」と会社の決算等に関する「決算情報」に区分して詳細に規定しています。もっとも、規制対象事実のすべてを条文で個別に規定することは難しいことから、金融商品取引法では「重要事実」を規定するのに加えて、「バスケット条項」を設けることで、個別に規定されていなくても投資判断に著しい影響を及ぼすものについてを規制の対象としています。
そして、インサイダー取引規制における「バスケット条項」とは、金融商品取引法に規定される「(業務等に関する)重要事実」のうちの「決定事実」「発生事実」「決算情報」以外で「当該上場会社及び子会社の運営、業務または財産に関する重要な事実であって投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすもの」を指します。(金融商品取引法第166条2項4号、8号)
金融商品取引法
バスケット条項
5 バスケット条項に関連する判例(最判平成11年2月16日)
(1)事案
皮膚科医院の院長であった被告人は、医薬品の販売を業とする上場会社A社と医薬品の販売取引契約を締結しているB社の従業員から重要事実(A社開発・発売の薬の副作用により死亡例が発生した)の伝達を受け、この事実の公表前に、自己が保有するA社株1万株を売りました。
(2)最高裁の判断
副作用症例の発生は、A社が有力製品として期待していた新薬に大きな問題があることを疑わせ、新薬の今後の販売に支障を来すだけでなく、A社の特に製薬業者としての信用を更に低下させて、同社の今後の業務の展開及び財産状態等に重要な影響を及ぼすことを予測させることから、本件重要事実は金融商品取引法第166 条第2項第4号に規定する「当該上場会社等の運営、業務又は財産に関する重要な事実」で「投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすもの」であり、いわゆるバスケット条項に該当するとしました。
バスケット条項が適用されたインサイダー取引
金融商品取引法における課徴金事例集~不公正取引編~(pdf)(129~152ページ)
内部者取引防止規程事例集(pdf)(30ページ)
6 インサイダー取引に対する罰則
(1) 刑事罰
①インサイダー取引を行った行為者は5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金又はこれらの併科がされます(金融商品取引法197条の2)。
②法人の代表者や従業員等が法人の業務等としてインサイダー取引を行った場合には法人も処罰(両罰規定・重課)されます。具体的には5億円以下の罰金が課されます(金融商品取引法 207条1項2号)。
③犯罪行為により得た財産について必要的没収・追徴もありえます(金融商品取引法198条の2)。
(2) 課徴金
インサイダー取引を行った行為者の経済的利得相当額を課徴金として国庫に納付しなければなりません。(金融商品取引法175条)
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