ソフトバンク元社員を起訴、不正競争防止法の営業秘密について
2020/02/21 コンプライアンス, 情報セキュリティ, 不正競争防止法
はじめに
東京地検は14日、社外秘の機密情報を不正に取得したとしてソフトバンク元社員の荒木豊容疑者(48)を不正競争防止法違反で起訴していたことがわかりました。取得した情報はロシア外交官に渡った疑いとのことです。今回は不正競争防止法が規制する営業秘密の取得について見直していきます。
事件の概要
報道などによりますと、ソフトバンク元社員の荒木被告は昨年2月18日と3月26日に千葉県浦安市の自宅で会社から貸与されていたパソコンを使用し会社のサーバーにアクセスし、営業秘密となっていた情報を画面に表示させて撮影したとされます。そして取得した情報はロシアの情報機関「対外情報局(SVR)」に所属する在日ロシア通商代表部の外交官に渡った疑いがあるとのことです。同外交官はすでにロシアに出国しており警察は外務省を通じて警視庁への出頭を求めております。
不正競争防止法による規制
不正競争防止法では営業秘密の不正取得や不正使用、不正開示などが不正競争行為として禁止されております。これらの営業秘密に関する不正競争行為に対して会社側は差止請求(3条)や損害賠償請求(4条)、信用回復措置請求(14条)ができます。営業秘密の開示等により営業上の利益が侵害された場合または侵害されるおそれがある場合にこれらの措置を取ることができます。そして刑事罰として10年以下の懲役、1000万円以下の罰金またはこれらの併科が規定されております(21条1項1号~7号)。
営業秘密とは
不正競争防止法による保護の対象となる営業秘密とはどのようなものでしょうか。2条6項では「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう」としています。つまり①秘密管理性、②有用性、③非公知性の3つの要件を満たすものが営業秘密に該当するということです。秘密管理性は「部外秘」と明示したりアクセス制限をかけるなど客観的に秘密として管理されていると認識できる状態をいいます。有用性とはその情報自体が社会通念上、客観的に事業活動上価値のあるものであることをいいます。その内容が違法なものや犯罪、脱税といった公序良俗に反するものである場合は該当しません。そして未だ刊行物などに記載されたり発表されたりしていない非公知なものである必要があります。
禁止行為の類型
営業秘密に関する禁止行為としては次のものが挙げられております。①詐取、詐欺、脅迫などの手段による取得および使用・開示(2条1項4号)、②不正取得された営業秘密であることについて悪意または重過失により取得、使用または開示(同5号)、③情報取得後に不正取得の事実について悪意または重過失となって使用、開示(同6号)、④保有者から開示された営業秘密を不正の利益を得るまたは損害を与える目的で使用または開示(同7号)、⑤不正開示された営業秘密であることについて悪意または重過失で取得、使用、開示(同8号)、⑥取得後に不正開示されたものと知りまたは重過失によって取得、使用、開示(同9号)。
コメント
本件で元ソフトバンク社員は同社から与えられていたアクセス権限によりサーバーにアクセスして機密情報を閲覧し、撮影した情報をロシア外交官に渡した疑いがもたれております。これが事実であった場合は2条1項7号の不正の利益または損害を与える目的による使用に該当することとなります。現在日本企業の機密情報はこのように他国に狙われるだけでなく、競業他社への転職の手土産として利用される事例が多いといえます(同種事例、最判平成30年12月3日)。サーバーへのアクセスだけでなく、PCへのUSBメモリ等の接続、読み出し、複写等の履歴、削除したデータやその履歴も復元することが可能となっております。営業秘密の管理についてだけでなく、どのような方法での持ち出しも調査が可能である旨を社内で周知徹底しておくことが重要と言えるでしょう。
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