英会話講師が逆転勝訴、雇い止めの要件について
2019/10/15 労務法務, 労働法全般

はじめに
英会話教室「シェーン英会話」の講師を務めていた英国籍のアダム・クリーブさん(47)が違法な雇い止めをされたとして運営会社を相手取り地位確認などを求めていた訴訟で東京高裁は9日、雇い止めを違法とする判断を下しました。
有給取得の評価が争点となっていたとのことです。
今回は労働契約法の雇い止め法理の要件を見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、アダムさんは2015年3月から「シェーンコーポレーション」(千代田区)が運営する英会話教室「シェーン英会話」で1年間の有期雇用契約で講師として勤務しておりました。
その後1回更新されたものの、2016年に有給休暇を申し出たところ同社側はそれを認めず欠勤扱いとし2017年2月28日に雇い止めされたとのことです。
アダムさんは東京都労働委員会に申し立て、審議中に雇い止めが行われたとされます。
アダムさんは違法な雇い止めであるとして東京地裁に提訴していました。
雇い止めの法理とは
判例では有期労働契約の労働者であっても、更新が反復継続され実質的に期間の定めのない労働契約と変わりがない場合には、更新拒絶は実質的に解雇と変わらないとして解雇に関する法令が類推適用されるべきとされてきました(最判昭和49年7月22日)。
またそうでない場合であっても、労働者が雇用継続に期待する合理的理由がある場合には解雇権濫用の法理によって雇い止めにも合理性が必要と考えられるようになりました(最判昭和61年12月4日)。
これら一連の有期労働者に関する考え方を雇い止めの法理と呼びます。
その後この法理は労働契約法に明文化されることとなります。
雇い止めの要件
労働契約法19条によりますと、①有期労働契約が反復更新され、更新しないことが無期労働者を解雇するものと社会通念上同視できる場合、または②更新されるものと期待することについて合理的理由がある場合には、更新拒絶するには「客観的に合理的な理由」が必要であり「社会通念上相当」と認められなければ更新したものとみなされることとなります。
更新されるものと期待される場合とは、例えばその会社では有期労働契約を更新することが常態化している場合や、会社側が継続雇用するかのような言動をしたり振る舞っていた場合が考えられます。
そのような場合は反復更新されていなくても該当することになります。
有給休暇と計画的付与制度
有給休暇は継続勤務年数に応じて労働者に与えられ、その範囲内で労働者が取得することができます。
会社側としては事業の正常な運営を妨げる場合に他の時季に変更することが認められております(労基法39条4項)。
また有給休暇のうち5日を除いて残りの期間を会社側が計画的に付与する制度もあります。
この5日分は労働者個人の都合による休暇が必要になる場合に備えて留保されております。
なおこの計画的付与制度を採用するためには労働組合または労働者の過半数を代表する者と協定を締結する必要があります(同6項)。
コメント
本件でアダムさんが有給を取得したところシェーン英会話側はそれを認めず無許可欠勤としました。
同社では年間20日の有給休暇のうち15日間について同社が時季を指定する計画的付与制度を採用しておりましたが労基法により義務づけられている労使協定は締結されておりませんでした。
またアダムさんの欠勤もストライキの実施によるものとされます。
東京高裁はこれらの点を考慮して同社の有給指定を全体として無効とし、欠勤も正当なものであり「客観的に合理的な理由」のある雇い止めには当たらないとしました。
以上のように現在の法制度では有期労働者も正社員と同様に雇い止めには相当の理由が必要となっております。
また会社側に法令違反がある場合には合理的な理由も認められにくいものと考えられます。
有期労働者を雇用している場合や、有給の計画的付与を行っている場合は今一度法定の手続が履践されているか確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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