島野製作所がアップルに敗訴、国際取引における準拠法について
2019/09/13 海外法務, 民事訴訟法

はじめに
電子部品メーカー「島野製作所」(荒川区)が債務不履行などを理由に米アップル社に対し損害賠償を求めていた訴訟で4日、東京地裁は請求を棄却する判決を言い渡していたことがわかりました。カリフォルニア州法に基づく立証が必要であったとのことです。今回は国際取引における準拠法について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、島野製作所はアップルのサプライヤーとしてアップルのPC用部品を製造・供給しておりました。島野製作所側の主張ではアップル側の要請により新型の電源アダプター用プロープピンの量産体制を整えたにもかかわらず突然アップル側から発注が停止されたとされております。島野製作所は発注を再開してもらうためにアップル側からの求めに応じ代金減額とリベートの支払いに応じたとのことです。島野製作所側は契約関係に基づく善管注意義務違反および独禁法違反に当たるとして損害賠償を求め東京地裁に提訴しておりました。
国際裁判管轄
外国企業などとの紛争が生じた場合に問題となるのがどの国の裁判所で裁判を行うべきかという点と、どの国の法律によるべきかという点が挙げられます。まずどの国の裁判所によるべきかについて民事訴訟法では原則として被告の住所地が日本にある場合は日本の裁判所に管轄があるとしています(3条の3第1項)。それ以外にも①日本国内の事務所・営業所の事業に関する訴え、②債務履行地が日本である場合、③請求の目的たる財産の所在地が日本である場合、④不法行為地が日本である場合、⑤消費者契約における消費者が日本に住所を有する場合などに日本の裁判所に管轄が認められます。それとは別に当事者間で「一定の法律関係に基づく訴え」に関して書面で合意した場合にはそれによることとなります(3条の7)。
準拠法
次にどの国の法律に基づいて判断すべきかが問題となります。これは一般に準拠法と呼ばれますが基本的には裁判管轄が認められる国の法律に基づいて決定されることとなります。日本では「法の適用に関する通則法」という法律によることとなります。通則法では準拠法は原則として当事者が法律行為の当時に選択した地の法によるとしています(7条)。まずは当事者の合意でによるということです。そして当事者間で準拠法に関する合意がなされていなかった場合には以下のように定まることとなります。
密接関連地法
当事者間に準拠法に関する合意が無い場合は「法律行為の当時において当該法律行為に最も密接な関係が地の法による」としています(8条1項)。さらにその法律行為において「特徴的な給付を当事者の一方のみが行う」場合にはその当事者の「常居所地法」によるとしています(同2項)。つまり製品などを供給している企業の事業所や主たる事業所の所在地の法となります。また不動産を目的とする法律行為ではその不動産の所在地の法が密接関連地法であると推定されます(同3項)。なおこれらの規定により準拠法が決定したとしても、その国の法の規定が公序良俗に反する場合は適用されないとされております(42条)。
コメント
本件で島野製作所とアップル間で締結されていた基本契約であるMDSAではカリフォルニア州の連邦裁判所または州裁判所を専属管轄とする旨の条項が記載されておりました。しかし東京地裁はこれを「一定の法律関係に基づく訴え」について定めたものとは言えないとして専属管轄条項を無効とし東京地裁の管轄を認めておりました。その上で準拠法についてはカリフォルニア州法による旨の合意があったと認定し、原告側がカリフォルニア州法に基づいた主張立証を行わなかったとして請求を棄却しました。以上のように他国企業との取引や契約に関する紛争が生じた場合にはまずどの国の裁判所で審理を行うかという点と、どの国の法によって判断するかという点が問題となってきます。上記のようにそれぞれ別の法律によって規定されておりますので注意が必要です。契約締結の際には法の要件を満たした合意となっているかに留意して契約書の作成を行うことが重要と言えるでしょう。
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