アシックス社員が会社を提訴、パタハラとは
2019/07/03 労務法務, 労働法全般

はじめに
大手スポーツ用品メーカー「アシックス」に勤務する男性が育児休業を取得したことを理由に関連会社に出向させられたのは違法であるとして会社を相手取り提訴していたことがわかりました。会社の業務に必要ない仕事を命じられているとしています。今回はパタハラとその規制について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、原告の男性社員(38)は2011年から同社の東京支社に入社し商品プロモーションの業務についていました。その後人事部に異動し2015年に第一子が誕生して約1年間の育児休業を取得します。しかし復職後は茨城県内の関連会社「アシックス物流」に出向を命じられ肉体労働に従事することとなります。男性は育児休業法違反を主張して弁護士を通じ会社と交渉し人事部に配転するも社内規定の英訳といった業務に関係のない仕事を命じられ、従わなかったことを理由としてけん責処分されたとしています。その後第二子誕生により同様に育児休業を取得し復職後も同じように英訳等の業務が命じられたとのことです。
パタハラとは
パタニティー・ハラスメント(パタハラ)とは男性が育児休業等の育児参加を行うに際し、会社や職場の上司等がこれを侵害する言動・扱いを言います。マタニティー・ハラスメントの男性版と言えます。育児休暇を取得したことを理由に配置転換や出向、昇給の不適用といったものや上司、同僚からの嫌がらせといったものまで多岐に渡ります。マタハラに比べて社会での認知度は高くありませんがマタハラ同様に違法となる可能性があります。以下具体的に法的規制について見ていきます。
パタハラの法的規制
育児介護休業法10条によりますと、労働者が育児休業の申し出、または育児休業をしたことを理由として解雇その他の不利益な取扱いをしてはならないとしています。パタハラだけでなく男女含めて育児休業を理由とする不利益取扱いを禁止しています。そして厚生労働省の「平成21年厚生労働省告示509号」と呼ばれるガイドラインでは不利益取扱いの具体例として、①解雇、②雇い止め、③自宅待機命令、④意に反する時間外労働の制限、⑤降格、⑥賞与等の不利益算定、⑦人事考課で不利益評価、⑧不利益な配転、⑨就業環境を害することなどが挙げられております。特に配転については、変更前後の賃金や労働条件、通勤事情、将来に及ぼす影響などを総合的に判断するとし、通常の人事異動のルールからは十分に説明できない変更により相当程度の不利益を生じさせる場合は違法としています。
パタハラに関する裁判例
パタハラに関する裁判例として、医療法人で勤務していた男性看護師が3ヶ月の育児休業を取得したことにより昇給や昇格試験を受けられなかったという事例があります。その医療法人では育児休業を3ヶ月以上取得した場合は翌年度は昇給せず、また当年度の人事評価の対象外となる運用をしていました。これに対し大阪高裁は1年のうちの4分の1にすぎない3ヶ月の育児休業で、残りの9ヶ月の就労状況を考慮せずに昇給や人事評価の対象から除外する行為は不就労期間の限度を超えて不利益を課すものであり公序良俗に反して無効としました(大阪高裁平成26年7月18日)。
コメント
本件で原告側の主張によりますと、育児休業取得によって物流会社への出向や社内規定の英訳といった本来必要の無い業務を命じられたとしています。事実であった場合には育児介護休業法の不利益取扱いに該当する可能性はあると言えます。配転前後での労働条件や就業環境等の労働者に及ぼす影響の度合いや配転の合理的理由の有無が主な争点となるのではないかと考えられます。近年厚労省では男性の育児参画や育児休業取得を推進しており、育児休業取得を義務化すべきではないかとの声も上がっております。また同様のパタハラを原因とする訴訟も増加しており会社側の処分を違法とする裁判例も出てきております。男性の育児休業は日本ではまだ社会的に馴染みが低く、またそれによる業務への支障から会社側も積極的に推奨しにくい事情があるのも事実ですが、育児休業を取得しやすい環境を整えていくことが重要と言えるでしょう。
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