欧州委が三菱UFJに制裁金、EU競争法について
2019/05/17   海外法務, 独占禁止法

はじめに

 欧州連合(EU)の欧州委員会は16日、EU競争法に違反したとして三菱UFJ銀行など5行に約1300億円の制裁金を課す旨発表しました。三菱UFJ銀行には約80億円が課されるとのことです。今回はEUでの独禁法にあたるEU競争法について見ていきます。

事案の概要

 報道などによりますと、三菱UFJは2007年から2013年にかけて英バークレイズ、英ロイヤル・バンク・スコットランド、米シティグループ、米JPモルガンの4行と外国為替取引を巡るカルテルに加わっていたとされております。これら5行はユーロや円、ポンド、ドル、スイス・フランなどの11の通貨での為替取引で取引価格や顧客からの注文などの情報を交換し、売買量などのすり合わせを行っていたとのことです。制裁金はJPモルガンが約2億3000万ユーロ、シティグループが約3億1000万ユーロとなっております。

EU競争法とは

 欧州連合では日本の独禁法に該当する「欧州連合の機能に関する条約(Treaty on the Functioning of European Union)」、一般的にEU競争法と呼ばれるものが存在します。加盟国での選挙で選ばれた議員で構成される欧州議会で制定され、欧州委員会および競争総局によって執行されます。そしてEU法に関する裁定については一般裁判所と上級裁判所に分かれる司法裁判所で行われます。以下競争法の中身を概観していきます。

禁止行為

(1)EU機能条約101条
 EU競争法ではまず、加盟国間の取引に影響を与える、域内市場の競争を阻害する事業者間協定などが禁止されます。これは競争関係にある事業者間(水平協定)だけでなく、メーカーと販売業者の間(垂直協定)でも適用があります。具体的には①価格協定、②生産、販売、開発、投資に関する制限、③市場、供給源の割当、④取引相手に対する差別的取り扱い、⑤抱き合わせなどが挙げられます。いわゆるカルテル行為であり、日本の独禁法での不当な取引制限に該当する行為と言えます。

(2)EU機能条約102条
 次に加盟国における域内市場での支配的地位の濫用行為が禁止されております。具体的には、①不公正な購入価格、不公正な取引条件を課すこと、②需要者の利益に反する生産、販売、技術開発の制限、③取引相手に対する差別的取扱い、④抱き合わせ契約などが挙げられます。日本の独禁法で言う不公正な取引方法の類型に該当するものと言えます。

違反した場合

 これらの禁止規定に違反した場合には排除命令や制裁金が課されることがあります。制裁金は直前の事業年度の総売上高の10%以内とされており、違反行為の類型に応じてさらに細かく算定方法が定められております。また制裁金制度にもやはり日本の課徴金制度と同様にリーニエンシー制度が設けられており、最初に申告、証拠の提供などを行った事業者は全額免除となっております。またそれ以外でも欧州委員会に著しい付加価値を有する証拠を提供した場合には順位に応じて最大50%の減額が認められます。

コメント

 本件で三菱UFJ等の5行が行っていたとされるのは外国為替のスポット取引における取引価格や数量などの情報交換と取引のすり合わせです。これはEU機能条約101条の事業者間協定、すなわちカルテル行為に該当するものと言えます。競争法違反による制裁金は日本の課徴金と同様に売上高から算定されることから一般的に相当高額となります。近年欧州連合によるEU競争法の適用が活発化しているとの声もあり、先日も任天堂など日本のゲーム会社数社が欧州委による調査を受けているとの報道もありました。EU加盟国は現在28ヶ国となっておりEU競争法の適用範囲も広いと言えます。これらの国に進出している場合、または進出の予定がある場合にはその国の法だけでなくEU法にも注意を払っていくことが重要と言えるでしょう。

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