クアルコム排除措置を取消、独禁法の「不服制度」
2019/04/05   コンプライアンス, 独占禁止法

はじめに

 公正取引委員会は3月15日、米半導体大手クアルコムに出していた排除措置命令を審判手続で取り消していたことがわかりました。審判手続は平成25年改正によって既に廃止されており、廃止前に申し立てられた事案については引き続き審理されております。今回は独禁法上の不服制度について見ていきます。

事案の概要

 報道などによりますと、クアルコムは2000年から2001年にかけてNECやシャープなどの国内メーカー18社と3G端末向けの特許技術の許諾契約を締結しました。契約ではメーカー側がクアルコムの特許を使用する際には使用料を支払う一方、クアルコム側は各社の特許を無料で使用でき、またクアルコムの特許を使用する企業間で特許紛争が生じても訴訟はしないという条項が盛り込まれていたとされます。これらが独禁法の拘束条件付取引に該当するとして2009年9月に排除措置命令が出され、クアルコムは不服申立てを行っておりました。

審判手続と法改正

 平成25年の独禁法改正以前は公取委による排除措置命令、課徴金納付命令に対して不服がある場合、審判手続の申し立てを行うことができました。審判制度では公取委または公取委が指定する職員が審判官となって主宰し、審判官が違反事実を立証を行い、企業側も違反が無いことを立証し処分が適法であったかを審判します。審判は公開され(旧法61条)、証拠によって事実認定を行うなど(同68条)司法手続に近い制度となっておりました。しかし審査する者と違反を立証する者が公取委から選ばれた者であり検察官が裁判官を兼ねるようなものとの批判もありました。そこで25年改正により審判手続は廃止となりました。なお改正以前に申し立てられた事件については引き続き審判手続が続行されます。

現行法上の不服制度

 旧法下では公取委の処分に不服がある場合はまず審判手続によることになり、その審決に不服があれば東京高裁に取消訴訟を提起することとなっておりました(旧法77条)。改正法では不服がある場合はいきなり処分の取消訴訟を提起することになります。管轄は東京地裁が専属管轄となり(現行法85条)、東京地裁に専門判事を集中させ必ず3人~5人の合議体で審理されます(同86条)。旧法の公取委の事実認定に裁判所が拘束される実質的証拠法則は廃止されました(旧法80条)。

意見聴取手続と執行停止

 法改正で審判手続は廃止されましたが、そのかわりに排除措置命令等の処分を下す前に意見聴取手続が導入されました。改正前は迅速な処分の後で事後的に当事者関与の下で処分の当否を判断しておりましたが、現行法では処分前に当事者が公取委側の証拠の閲覧や反論のための証拠提出などによって積極的に防御活動を行うこととなりました(49条)。また改正前は供託することによって排除措置命令の執行を免除する制度がありましたがそれも廃止され、他の行政処分同様に行政事件訴訟法25条の執行停止手続によることとなっております。要件としては取消訴訟が提起されており、処分による重大な損害を避ける緊急の必要性がある場合となります。ただし執行停止が公共の福祉に重大な影響を及ぼす場合や本案について理由がないとみえるときは停止されません。

コメント

 本件審判手続の審決で公取委はクアルコムと国内メーカーとの無償許諾条項について、国内メーカー側もクアルコムの特許を使用できるという利点がある以上、対価の無い無償契約とは言えず拘束条件付取引には当たらないとしました。両当事者のメリット・デメリットを適切に判断できていなかったとしています。審判手続で全面的に処分が覆ることは異例とされます。このように審判手続は公取委自らが判断し、またその後の取消訴訟でも事実認定についてはかなりの部分で裁判所が公取委に拘束されることから覆すことは容易ではありませんでした。しかし現行法では処分前から当事者も積極的に争うことができ、また処分についても最初から取消訴訟が提起できるようになっております。公取委から違反の疑いが通知された場合には以後の手続きの流れを把握して適切に対処していくことが重要と言えるでしょう。

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