手当方式による固定残業代の支払いについて
2018/10/01   労務法務, 労働法全般

1.はじめに

 固定残業代制度は、労働者の残業時間が所定の残業時間内であれば、残業代の算出をする必要がないというメリットがあります。その一方で、残業代の節約のために制度を悪用する企業が問題となっており、判例では固定残業代の有効性が否定されるケースが数多くあります。固定残業代の有効性が否定された場合は、支給した賃金の他に時間外労働分の割増賃金を支払う必要があります。今回は、そのような傾向の中で、固定残業代の有効性が肯定された事例について紹介いたします。
 

2.固定残業代とは

 固定残業代とは、一定時間の残業を見込んで、固定額を基本給の一部または手当として支払う制度であり、「みなし残業」とも呼ばれます。固定残業代が有効と認められる要件について、判例上では、①当該賃金が割増賃金に代えて支払われる趣旨であること、②基本給と固定残業代部分が明確に区別されていること、③固定残業代分を超えて時間外労働を行った場合、差額の割増賃金が支払われる合意があることという、3つの点があげられます。

3.事案の概要

 今回紹介する判例は、薬剤師である原告が保険調剤薬局である被告に対し、基本給とは別に支払われていた業務手当は時間外労働に対する対価にあたらないとして、時間外労働に対する割増賃金の支払いを求めた事件です。被告である保険調剤薬局では、時間外労働30時間分として業務手当が支給される旨の賃金規定があり、従業員との間で業務手当が30時間分の固定時間外労働賃金である旨の確認書を作成したことをもって、①当該賃金が割増賃金に代えて支払われる趣旨であるという要件を充たすかが問題となりました。

4.最高裁判所の判断

 高等裁判所では、定額残業代を時間外手当の支払いとみなすことができるのは、「定額残業代を上回る金額の時間外手当が法律上発生した場合にその事実を労働者が認識して直ちに支払を請求することができる仕組み(発生していない場合にはそのことを労働者が認識することができる仕組み)が備わっており,これらの仕組みが雇用主により誠実に実行されているほか,基本給と定額残業代の金額のバランスが適切であり,その他法定の時間外手当の不払や長時間労働による健康状態の悪化など労働者の福祉を損なう出来事の温床となる要因がない場合に限られる。」として、原告の請求を一部認容しました。
 これに対して最高裁は、当該賃金が固定残業代として割増賃金に代えて支払われる趣旨であるかについて、高等裁判所が要求するような事情が認められることを必須のものとしているとは解されないとして、原告に支給された業務手当が固定残業代として有効であると判断しました。
 

5.コメント

 高等裁判所が示した事情は、固定残業代分を超えた時間外労働について残業代の精算をせず、従業員にサービス残業を強要するということが一部の企業において横行していると言う問題を背景に、固定残業代が有効と認められるために厳しい要件を課したものと考えられます。しかし、基本給と定額残業代の金額のバランスや、労働者の福祉を損なう出来事の温床となる要因という不明確な要件を課し、それが認められなければ契約外の賃金を支払わなければならないというのは、企業にとって過剰な負担となると考えられます。この判例を機に、本来の意図で固定残業代制度が運用されるようになり、企業の効率的な業務運営の一助になることを願っています。

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