金融庁がJC証券の登録取消、法定手続き不履践のリスク
2018/07/25 金融法務, コンプライアンス, 金融商品取引法, 会社法

はじめに
金融庁は24日、JC証券に対し、経営管理体制が機能していないなどとして金融商品取引業者の登録を取り消しました。会社法上求められる手続きなどを行っていなかったとのことです。今回は金商法上の金融商品取引業者への規制と会社法による規制不履践について見ていきます。
事案の概要
金融庁の発表などによりますと、JC証券は昨年10月に親会社を割当先とする約2億5600万円の増資を行いました。その際に会社法上必要とされる取締役会、株主総会を開催していなかったとのことです。また同月それによりえた金員を原資として貸付を行う際も必要な取締役会を開催していなかったとされます。いずれの場合も適法に可決された旨の虚偽の議事録が作成され、金融庁による調査に対してもそれらを提出していたとのことです。
金商法による規制
株式や社債、デリバディブなどの販売や投資勧誘、運用助言などの事業を行うためには金融商品取引業者として金商法上の登録を受ける必要があります(29条)。しかし登録申請を行っても登録拒否事由が有る場合には登録は拒否されることになります(29条の4)。拒否事由の例としましては①過去に登録が取り消され5年が経過していない場合、②金商法等の法令違反により罰則が適用され執行終了から5年が経過していない場合、③他に公益に反する事業を行っている場合、④金商業を遂行するに足りる人的構成を有しない場合、⑤金商業を遂行するための必要な体制が整備されていない場合などが挙げられます。そして登録後にこれらの事由が発生した場合は登録の取り消しや業務停止命令を出されることがあります(52条1項各号)。
会社法上必要な手続き
(1)募集株式発行
株式を発行して増資する場合、公開会社は株主割当、第三者割当を問わず原則として募集事項の決定を取締役会で行うことが必要となります(会社法201条1項、202条3項3号)。非公開会社の場合は原則として株主総会の特別決議によることになります(199条2項・309条2項5号、202条3項4号)。有利発行の場合や定款に別段の定めがある場合を除いて会社法は株式発行にはその都度このような手続きを求めております。
(2)重要財産の処分
会社法362条4項では取締役会の権限として、重要な財産の処分及び譲受け、多額の借財などが規定されております。これは取締役会の専決事項であり取締役に委任することはできません。ここに言う「重要な財産」に当たるかは財産の価額、会社の総資産に占める割合、保有目的、処分の態様、会社における従来の取扱等の事情を総合的に考慮して判断されます(最判平成6年1月20日)。
コメント
本件でJC証券は約2億5600万円分の株主割当増資を行っております。株主割当増資を行うには公開会社なら取締役会、非公開会社なら株主総会の特別決議によって決定することを要します。そしてそれによって得た金員を元に特定個人に対して貸付を行っております、金融庁によりますと貸付額は当時の総資産の7割を占めるとされます。これは重要な財産の処分に当たり取締役会決議を要する場合に該当する可能性が高いと言えます。またこれらの与信判断も実質的に検討がなされず、議事録も偽造されていたとされ、金商業を的確に遂行するために必要な体制を欠いていたと判断されました。零細な中小企業などでは会社法所定の手続きが行われていない場合も多いと言われておりますが、金商法に限らず多くの場合では取消事由等のリスクに該当することになります。今一度会社法所定の手続きを確認することがコンプライアンス上重要と言えるでしょう。
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