金融庁公表の「顧客本位の業務運営に関する原則」について
2018/06/21   金融法務, 金融商品取引法

1 はじめに

 平成29年3月、金融庁は「顧客本位の業務運営に関する原則」(以下「本原則」といいます)を確定し、公表しました。この原則は、金融事業者が顧客本位の業務運営における効率性を高めるために有用と考えられる原則を定めるものですが、本原則内において「金融事業者」という用語は特に定義されておらず、金融庁は幅広い企業において採択されることを目指しているようです。そこで本稿では、本原則の概要と、本原則定着のために金融庁がどのような取り組みをしているのかについて検討していきます。
 

2 本原則策定の経緯

 これまで、金融商品の分かりやすさの向上等を目的として法改正が行われてきましたが、法令が最低基準となり、金融事業者に「それさえ守ればよい」という姿勢を作らせ、形式的・画一的な対応を助長してきたという面がありました。しかしながら、顧客本位な業務運営方法は各事業者が自ら模索していくべきものです。そこで、事業者が自らそのような業務運営方法を目指していけるようなメカニズムを構築する必要があると考えられ、今回、本原則が策定されるに至りました。

3 本原則の内容

 事業者の自発的な行動を求める本原則は、「企業はこのような行動をとるべき」というルールベース・アプローチを採用しておらず、それぞれが置かれた状況に応じて顧客本位の業務運営を実現できるよう、プリンシプルベース・アプローチが採用されています。金融事業者には、本原則の趣旨を咀嚼し、自ら実践する姿勢を構築し、どのような行動をとっていくべきかを適切に判断していくことが求められています。
 本原則の趣旨は、本原則を踏まえて何が顧客のためになるのか、事業者において真剣に考えさせ、より良い金融商品・サービスの提供を競い合うよう促していくことにあります。

 本原則では、以下の7点が定められています。

【顧客本位の業務運営に関する方針の策定・公表等】
原則1.金融事業者は、顧客本位の業務運営を実現するための明確な方針を策定・公表するとともに、当該方針に係る取組状況を定期的に公表すべきである。当該方針は、より良い業務運営を実現するため、定期的に見直されるべきである。

【顧客の最善の利益の追求】
原則2.金融事業者は、高度の専門性と職業倫理を保持し、顧客に対して誠実・公正に業務を行い、顧客の最善の利益を図るべきである。金融事業者は、こうした業務運営が企業文化として定着するよう努めるべきである。

【利益相反の適切な管理】
原則3.金融事業者は、取引における顧客との利益相反の可能性について正確に把握し、利益相反の可能性がある場合には、当該利益相反を適切に管理すべきである。金融事業者は、そのための具体的な対応方針をあらかじめ策定すべきである。

【手数料等の明確化】
原則4.金融事業者は、名目を問わず、顧客が負担する手数料その他の費用の詳細を、当該手数料等がどのようなサービスの対価に関するものかを含め、顧客が理解できるよう情報提供すべきである。

【重要な情報の分かりやすい提供】
原則5.金融事業者は、顧客との情報の非対称性があることを踏まえ、上記原則4に示された事項のほか、金融商品・サービスの販売・推奨等に係る重要な情報を 顧客が理解できるよう分かりやすく提供すべきである。

【顧客にふさわしいサービスの提供】
原則6.金融事業者は、顧客の資産状況、取引経験、知識及び取引目的・ニーズを把握し、当該顧客にふさわしい金融商品・サービスの組成、販売・推奨等を行うべきである。

【従業員に対する適切な動機づけの枠組み等】
原則7.金融事業者は、顧客の最善の利益を追求するための行動、顧客の公正な取 扱い、利益相反の適切な管理等を促進するように設計された報酬・業績評価体系、従業員研修その他の適切な動機づけの枠組みや適切なガバナンス体制を整備すべきである。

4 本原則定着に向けた金融庁の取組み

 金融庁の調査によると、フィデューシャリー宣言(本原則を実施することを宣言すること)を行った事業者においても、顧客本位の業務運営の実現に向けて大きな進展が見受けられない状況にあることがわかっています。そこで、本原則を普及し定着させていくために、金融庁は以下の取組みを行っています。
 ①金融事業者の取組みの「見える化」
 ②業務運営の実態把握、モニタリング
 ③顧客の主体的な行動の促進
 ④顧客の主体的な行動を補う仕組み

5 今後の実務に向けて

 本原則は金融事業者に向けて提唱されたものですが、顧客を抱える企業であれば、どのような企業であっても参考になるものと思われます。本原則はプリンシプルベース・アプローチが採用されているため、本原則だけ読んでも、具体的にどのような行動をとっていくべきか設定しにくいところがあると思われます。フィデューシャリー宣言を既に行っている企業は公開されており、方針も公表されているため、自社の方針決定にあたり、参考になるかと思います。

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