企業不祥事の際の第三者委員会について
2018/06/13 コンプライアンス

はじめに
昨今、スルガ銀行や日本大学等のいわゆる不祥事が生じた企業や法人では第三者委員会の設置が行われております。中立的な第三者の目を入れることによってガバナンス体制の再構築や原因究明を図ることを目的とします。今回はそんな第三者委員会について見ていきます。
第三者委員会とは
企業や自治体等の公的機関、学校や法人といった様々な団体で不正や不祥事が生じた場合にそれらの団体から独立した外部の人間で構成された検証委員会を第三者委員会と言います。通常は弁護士を始めとした法律家を中心にその分野の専門家などが加えられます。現在第三者委員会を規律する法令等はありませんが、日弁連から「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」が策定され公表されております。以下その概要を見ていきます。
日弁連のガイドライン
(1)第三者委員会の活動原則
ガイドラインではまず第三者委員会の活動の原則が示されております。第三者委員会は不祥事自体の調査に留まらずその背景や動機、経緯、内部のガバナンス・コンプライアンス体制、企業風土も調査し、事実認定は証拠に基づき客観的に行うとしています。また第三者委員会は責任追及を目的とするものではなく、企業等の説明責任を果たすことを目的とするとされております。
(2)活動についての指針
第三者委員会は目的達成のために必要十分な調査範囲を決定した上で、事実認定は各種証拠から十分吟味して行うとしています。また法律上の証明による厳格な事実認定に留まらず、疑いの程度を明示した灰色認定も可能としています。そして第三者委員会の活動は独立性・中立性が必要で、企業側と利害関係を有する者は委員に就任できず、調査報告書の内容の決定権は第三者委員会に専属し、その内容を企業側に予め開示しない等が示されております。
(3)調査手法
第三者委員会の調査は各種手法を用いて正確に多角的に行うことが求められます。そしてその調査手法の例として、関係者への十分なヒアリング、関係文書の精査、証拠の確保と散逸、隠滅防止、内部統制、コンプライアンス意識、企業風土などの調査のための社員アンケート、内部の社員等の自主申告促進、ホットラインの設置、専門家によるデジタル調査などが挙げられております。
(4)構成委員について
第三者委員会の構成委員は原則として3名以上とし、関連法令、内部統制、コンプライアンス、ガバナンス等に精通した弁護士を基本に、事案の性質に応じて学識経験者、ジャーナリスト、公認会計士などの有識者を加えるとしています。そして上記のとおり不祥事を起こした企業等とは利害関係の無い中立・独立の者である必要があります。また報酬については時間制を原則とし成功報酬型の報酬は企業側の期待する結果を導こうとする動機につながりうることから不適切としています。
コメント
本件日弁連のガイドラインは第三者委員会の目的を達成するために必要と考えられる現時点でのベスト・プラクティスを示したものであり拘束力は無いとされております。しかし直接に規律する法令等が無い現状、このガイドラインに基本的に準拠して第三者委員会を立ち上げることが社会への説明責任、信用回復といった意味でも妥当と思われます。悪質タックル問題で揺れる日本大学でも本ガイドラインに依拠しているとされますが、一部では中立性に疑問の声も上がっており、特に報酬体系については厳格にガイドラインを遵守した上でその方針を公表することが信頼性確保につながると言えます。以上のように不祥事が生じた際には第三者委員会の設置は社会的信用回復に効果的と言えますが、中立性や調査手法に疑義が生じては逆効果となります。不祥事の際には本ガイドラインの趣旨を精査し真摯に調査に協力することが事態解決の近道と言えるでしょう。
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