シェアハウス投資業者のリスク説明について
2018/04/19 不動産法務, 民法・商法

1 はじめに
長期の賃料収入を保証という触れ込みで不動産業者に勧誘された個人が、不動産業者と賃貸借契約を締結して行う不動産運用方法をシェアハウス投資といいます。
不動産業者スマートデイズ(東京)はシェアハウスの販売で利益を得、それを家賃保証に回すというビジネスモデルを取っていましたが、入居率の低迷で今年1月に物件所有者への賃借料の支払いを停止するなど、事業が頓挫している状態にあったようです。報道によると、今月9日、同社は民事再生法の適用を申請したとのことです。今回はこの事例を題材に、賃貸住宅の管理業者向け制度と、登録義務付けを求める声について紹介していきたいと思います。
2 サブリース契約とは
スマートデイズはサブリースという一括借り上げ契約を締結していました。サブリース契約では、オーナーとなる個人に家賃収入を保証して勧誘し、当該個人との間で賃貸借契約を締結します。通常の場合、空室になっている部屋からは賃料収入が発生しませんが、サブリース契約では不動産業者側が一括で借り上げるため、空室があったとしても収入が保証されるところにメリットがあります。賃料は全室が借りられているときと比べて7割~9割程度となるのが相場のようです。不動産業者は、そのようにして借りた不動産を入居者に転貸という形で貸します。
3 賃貸住宅の管理業者向け制度とは
平成23年、国土交通省は賃貸住宅の管理業務の適正化を図るために賃貸住宅管理業の登録制度を創設しています。平成28年には制度が改正され、サブリースの契約前には「将来は家賃が減る可能性がある」など、物件オーナーにリスクを説明することを義務付けていました。制度に登録した場合は説明義務が発生しますが、制度の登録自体は任意となっています。
登録を受けた際の法的な効果は特にありません。登録を受けた事業者名は公開されるため、その業者が賃貸住宅の管理業務に関し、一定のルールに沿って重要事項の説明や書面交付、受領家賃など財産の分別管理を適切に行っていることなどが一般に明らかになります。制度の登録には強制力がないため、賃料不払いとなった業者はスマートデイズ含め5社あり、いずれも制度に未登録でした。国交省は制度未登録の業者や制度対象外の業者等に対しても通達等でリスク説明を求めていましたが、それにも強制力はなく、シェアハウス投資では高利回りの賃料保証ばかりを強調した勧誘が横行しているようです。
4 今後の実務に向けて
今回の件については被害者の会が結成され、集団訴訟が視野に入れられています。サブリース契約を絡めた不動産事業を行っている企業の法務担当者様に置かれましては、今回の件を参考に、訴訟を未然に防ぐための方策を検討していく必要があります。
制度登録に法的効果はありませんが、制度に登録することで、貸主や借主は、業者との契約や物件選択の判断について登録情報を活用することが可能となります。制度の登録対象者は「賃貸住宅管理業を営もうとする者」(賃貸住宅管理業者登録規定第3条)であり、不動産仲介業者等は登録対象外ということになりますが、借主等の利益の保護を図るという制度趣旨からすると、リスク説明を積極的に行っていくことが望ましいと考えられます。このような訴訟は、消費者の不満感・企業に対する不信感から発生することがあります。リスク説明を行うことによって、将来的に訴訟となる可能性を減らせると思われます。
日本弁護士連合会は今年2月15日付の意見書で、サブリースを手掛ける業者に制度への登録を義務付け、投資勧誘も規制するように求めています。この意見書は住宅メーカーによるアパート投資勧誘が念頭にあるものですが、シェアハウス投資でもこの構図は変わらないと思われます。登録費用もかからないため、制度の登録対象業者であれば登録し、リスク説明について意識を高めることが有効であると考えられます。
【参考サイト】
土地カツnet:サブリースとは?メリットデメリットとトラブル回避のための注意点
el—Lab:不動産投資で失敗しないリスク回避法
全国賃貸住宅新聞:スマートデイズに対し集団訴訟視野
日本弁護士連合会:サブリースを前提とするアパート等の建設勧誘の際の規制強化を求める意見書
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潮崎明憲 氏(株式会社パソナ 法務専門キャリアアドバイザー)
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