増える変わり種優待、株主優待制度について
2018/03/14 商事法務, 総会対応, 会社法

はじめに
日経新聞電子版は7日、近年、旅行券やマッサージ、展望室の無料見学パス、交通傷害保険など様々な変わり種株主優待が増えている旨報じました。投資家の興味を引き、個人株主増加に役立つ株主優待。今回は株主優待制度とその問題点について見ていきます。
株主優待制度とは
株式会社が一定数以上の株式を保有している株主に与える優待制度を株主優待制度と言います。現在約1300社の上場企業が導入しておりその内容は様々ですが、金券や自社製品に使用できるギフト券が最も多いとされております。株主優待は一般的に一定数の株式を保有していれば画一的に与えられる場合が多く、大株主よりも零細株主のほうが利回りが高く恩恵が大きいとされており、個人株主を増やすことを目的に導入することが多いと言われております。株主優待制度は会社法には規定がなく、会社法上一定の問題があるとされます。
会社法上の問題点
(1)株主平等原則
株主平等原則とは、会社は株主をその保有する株式の内容および数に応じて平等に取り扱わなければならないとする原則をいいます(会社法109条1項)。これに反する定款、株主総会決議、取締役会決議などは無効となります。株主優待制度は株式を一定数以上保有していれば、保有数にかかわらず同じだけの優待が与えられることが多く、零細株主も大株主も同じということになります。この点で保有数に比例した平等な扱いを求める平等原則に反するのではとの問題が生じます。現状この点についての判例はありませんが、学説では①優待の程度が軽微であれば平等原則に反しないとするものや、②個人株主増加や顧客の増加など会社経営上の合理的必要性があれば平等原則に反しないとの説が有力とされております。
(2)配当規制
剰余金の配当はその時における分配可能額を超えて行うことができません(461条1項)。分配可能額が無いにもかかわらず行われる配当を一般に蛸配当と呼び、無効な配当として株主は返還義務を、役員は金銭支払い義務を負うことになります(462条1項)。株主優待制度は配当可能額がなくても、これを利用して実質的に配当を行い、配当規制を潜脱する場合があるのではないかと指摘されております。
(3)利益供与
株式会社は株主の権利行使に関して、何人に対しても利益を供与してはならないとされております(120条1項)。株主優待制度も場合によっては利益供与禁止との関係で問題となります。たとえば役員選任に関する株主総会決議で、会社側に有利に議決権を行使した株主に対し金券を交付する場合は裁判例でも利益供与に当たるとされます(東京地裁平成19年12月6日)。画一的な基準に基づかずに会社の裁量で株主に与える優待制度はこの原則に反する可能性があるということです。
コメント
個性的な株主優待制度は個人株主にとって魅力的で、個人投資家の増加が期待できると言われております。大口の機関投資家や金融機関と異なり、個人投資家は会社の経営にはあまり興味が無く、会社側の意見に賛同してくれる場合が多く、個人投資家の増加は会社経営の安定化につながるとも言われております。また株主数は証券取引所の上場廃止要件との関係でも重要です。そういった意味でも各企業の個性を全面に打ち出した株主優待制度の導入は有益と言えます。しかし一方で上記のような会社法上の問題をはらんでいる点にも注意が必要です。会社の規模や株主の数、保有株式数などを考慮し、社会通念上「軽微」な利益を超えないよう、また要件を満たす株主間で不平等とならないよう画一的な基準のもとに、他の会社には無い魅力的な優待制度を提供することが重要と言えるでしょう。
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