デンソー事件にみる、税務訴訟の流れ
2018/02/05 税務法務, 租税法, 税法
はじめに
税務訴訟において、その勝訴率は高くありません。国税庁の発表によれば、平成26年度における国税に関する訴訟事件での納税者の勝訴率は6.8%とされています。近年では10%を下回る年が増えています。もっとも、法務担当者としては会社の見解を裁判という形で表明すべく、時には戦う必要があるでしょう。そこで、今回は、デンソー事件を題材に、税務訴訟の流れを概観して見ていきます。
事案の概要
東京税理士会の発表によると、株式会社デンソー(A社)は、1970年代以降、ASEAN地域に順次子会社を設立していました。当時は、各所在地国の外資規制により、現地資本の過半数による資本参加が義務付けられていました。そのため、株式の過半数は現地合弁パートナーにより占められていました。そして、A社は保有していたASEAN地域のグループ会社7社の株式を全て現物出資し、設立しました。
本事件は、シンガポールに設立された100%子会社であるB社の課税対象留保金額に相当する金額が、A社の所得金額の計算上益金の額に算入されるかが争われた事案です。
外国子会社合算税制
外国子会社合算税制とは、日本法人等が、税負担の著しく低い外国子会社等を通じて国際取引を行い、直接国際取引した場合より税負担を不当に軽減・回避し、結果として日本での課税を免れる事態に対処するため、一定の税負担の水準(20%)未満の外国子会社等の所得に相当する金額について、内国法人等の所得とみなしてそれを合算して課税する制度をいいます(租税特別措置法(平成21年法律第13号による改正前のもの)66条の6第3項)。もっとも、①事業規準②実体規準③管理支配規準④(1)所在地国規準(2)悲関連者規準のいずれか、という以上4点を充たす事で適用除外が認められています。
争点及び結論
本件では、①事業規準(主たる事業が株式の保有等、一定の事業でないこと)にあたるかが問題となりました。
この点に関して、内国法人に係る特定外国子会社等が行っていた地域統括業務は、地域企画、調達、財務、材料技術、人事、情報システム及び物流改善という多岐にわたる業務からなるという事実が認められ、集中生産・相互補完体制を強化し、各拠点の事業運営の効率化やコスト低減を図ることを目的とするものとされました。そのため、前述の①を充たし、適用除外が認められ、租税特別措置法(平成21年法律第13号による改正前のもの)66条の6第3項にいう株式の保有に係る事業に含まれないとされました。
税務訴訟
本事件は、結論として納税者側が勝訴した事件になります。税務訴訟は無効確認訴訟や国家賠償請求訴訟、不当利得訴訟といった形をとることもありますが、多くの場合は本事件と同様に取消訴訟の形式をとります。そのような場合には、税務訴訟は不服申立前置主義(行政事件訴訟法8条1項但書、国税通則法115条)をとっているため、再調査請求⇒審査請求⇒取消訴訟の順に進展していきます。原則としまして、原処分から3ヶ月以内に再調査請求又は審査請求をしなければなりません。また、再調査決定から1ヶ月以内に審査請求が必要となり、裁決から6ヶ月以内に取消訴訟を提起する必要があります。出訴期間の制限については、課税処分の早期確定の要請もあり、迅速な対応が望ましいでしょう。
コメント
税務当局としては、税務訴訟で勝訴する可能性が高くなければ、課税処分を見送る傾向にあるといわれています。そのため、税務調査段階で主張と立証を尽くすことにより、納税者に有利な解決をすることが期待できると思います。本事件を含め、勝訴案件の多くは税務調査段階で課税処分がなされ、審査請求でも敗訴し、最終的に税務訴訟となって勝訴しています。
そのため、税務調査段階で綿密な事実関係の調査をし、過去の事例や専門家の意見を参考に意見書作成に尽力することで、税務訴訟までの時間やコストの削減につながるものと思います。
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